胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第15章 真(まこと)
《巻の参―真(まこと)―》
次の日から、おつやの母親探しが始まった。
毎日屋敷を抜け出すことになるので、泰雅と時橋にだけは、おおよその事情を打ち明けた。
案の定、泉水の話をひととおり聞いた泰雅は渋い顔になった。その態度からして、これは外出を止められるかもと覚悟はしたのだけれど、泰雅は吐息を吐いただけであった。
「どうせ俺が止めても、そなたはまた一人で勝手に抜け出すつもりであろうが」
泰雅は弱り切ったとでも言いたげな表情で、泉水を見つめた。
「そなたのお人好しと向こう見ずには、真に呆れるというか、頭が下がるというか。さりながら、泉水、そちも不安に思うように、おつやという子どもの母親―おはると申したか、ただの家出とは到底思えぬな。もし、おはるが男を作って、そのために家を出たのだとすれば、いかがする? たとえ、そうであっても、そなたは、おつやに真実を告げるつもりか、それだけの覚悟はあるのか」
直裁に問われ、泉水は少し逡巡した。
「今は―判りませぬ。ただ、私は真実を知りたい、もう一度だけ、おはるさんに逢いたいと願うおつやちゃんの気持ちを大切にしてあげたい、何とかしてその願いを叶えてあげたいと思うだけにございます」
「そうか」
泰雅は、それ以上何も言わなかった。
「くれぐれも身に危険のなきよう気をつけるように」
ただ、そのひと言をくれただけであった。
探索は、毎日のように続けられた。
おつやの小さな手を引いて、脚を棒にして一日中歩き回っても、何の成果も手がかりもなく、日は空しく過ぎてゆく。
二人で探し始めて数日が経ったある日のことだった。夕刻、おつやが急に道端で立ち止まった。探すとはいっても、殆ど闇雲に探し回っていると言った方が良いのだ。おはるの交友関係は、かつて奉公していた縄暖簾の朋輩に限られており、他にどのような人物と拘わりがあったのかまでは掴めていないのである。
縄暖簾の朋輩は、おさんといった。二十七、八の色の浅黒い中年増で、狐のように尖った顎と細いつり目が印象的だ。かといって、きつい印象はなく、ゆったりと話す口調は独特で人の好さを窺わせる。
次の日から、おつやの母親探しが始まった。
毎日屋敷を抜け出すことになるので、泰雅と時橋にだけは、おおよその事情を打ち明けた。
案の定、泉水の話をひととおり聞いた泰雅は渋い顔になった。その態度からして、これは外出を止められるかもと覚悟はしたのだけれど、泰雅は吐息を吐いただけであった。
「どうせ俺が止めても、そなたはまた一人で勝手に抜け出すつもりであろうが」
泰雅は弱り切ったとでも言いたげな表情で、泉水を見つめた。
「そなたのお人好しと向こう見ずには、真に呆れるというか、頭が下がるというか。さりながら、泉水、そちも不安に思うように、おつやという子どもの母親―おはると申したか、ただの家出とは到底思えぬな。もし、おはるが男を作って、そのために家を出たのだとすれば、いかがする? たとえ、そうであっても、そなたは、おつやに真実を告げるつもりか、それだけの覚悟はあるのか」
直裁に問われ、泉水は少し逡巡した。
「今は―判りませぬ。ただ、私は真実を知りたい、もう一度だけ、おはるさんに逢いたいと願うおつやちゃんの気持ちを大切にしてあげたい、何とかしてその願いを叶えてあげたいと思うだけにございます」
「そうか」
泰雅は、それ以上何も言わなかった。
「くれぐれも身に危険のなきよう気をつけるように」
ただ、そのひと言をくれただけであった。
探索は、毎日のように続けられた。
おつやの小さな手を引いて、脚を棒にして一日中歩き回っても、何の成果も手がかりもなく、日は空しく過ぎてゆく。
二人で探し始めて数日が経ったある日のことだった。夕刻、おつやが急に道端で立ち止まった。探すとはいっても、殆ど闇雲に探し回っていると言った方が良いのだ。おはるの交友関係は、かつて奉公していた縄暖簾の朋輩に限られており、他にどのような人物と拘わりがあったのかまでは掴めていないのである。
縄暖簾の朋輩は、おさんといった。二十七、八の色の浅黒い中年増で、狐のように尖った顎と細いつり目が印象的だ。かといって、きつい印象はなく、ゆったりと話す口調は独特で人の好さを窺わせる。