テキストサイズ

胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第15章 真(まこと)

ならば、もう一度だけ、夢札を買えば、これから自分が取るべき道を示唆してくれるのではないか、そんな期待があった。
「今、迷ってるの。たとえ、どんなに残酷なことでも、真実を伝えた方が良いのか、それとも、相手にできるだけ衝撃を与えないように、嘘でも良いから適当なことを取り繕って言えば良いのか。あなたの夢札を見れば、何かの手がかりになるんじゃないかと思って」
 と、夢五郎のにやけた顔が俄に引き締まった。
「相手は、どう思ってるんだい? 真実を知りたいと願ってるんじゃないのか」
「それは、真実を知りたがってるわ。でも、相手はまだ子どもなのよ。本当のことを知りたがっているとしても、それをそのまま伝えても良いものかどうかは判らない。真実を知ることがいつだって、その人にとって良いことだとは限らないでしょう」
「うーん」
 夢五郎は唸ると、眼を瞑った。
 わずかな静寂が流れた。
「いや、そうとは限らねえな」
 夢五郎が、突然、その静けさを破る。
「真実を知ることは、やはり大切なことだぜ。姐さん、幾ら避けて通りたくても、避けて通れない真実ってものがある。真実を知りたいと自ら願うような子だ。どんなに酷い現実でも、その子はきっと一生懸命に受け止め、乗り越えようとするだろう。むろん、今すぐに乗り越えることはできねえとしても、いつか必ず乗り越えられる。もし、姐さんが適当なことを言ったとしても、その子は利発な子だぜ、恐らくは、それが嘘だと見抜くに違えねえさ。そんな一時のごまかしは、本気の相手には通用しねえし、かえって失礼というもんだね」
きっぱりと言われ、泉水はうなだれた。
「姐さん、言っとくが、物事を解決するのに、私の売る夢札は役には立たないよ。私の夢札はあくまでも、夢のゆく先を語るものであって、それで未来を変えようとか、揉め事、厄介事を解決する糸口にしようとかっていうような代物じゃない。どこまでも、その人の夢を語るだけのものさ。じゃア、そんなものは何の役にも立たない、つまらねえものだと言われりゃア、ひと言も言い返せはしねえんだがな」
 落胆する泉水に、夢五郎の声が聞こえてくる。何故か、その声は妙に優しく響いた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ