胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第16章 嵐
「私は駄目な妻でございますね。何も深刻に考えもせず、一人で身勝手に町中をうろつき回って、殿にご心配ばかりおかけして」
「何を申すかと思えば、泉水、つくづくそなたらしくもないことを言う。なあ、泉水、俺の望みは、そなたがいつもそなたらしういることなのだ。そなたは、いつも太陽のように眩しく笑っていろ。伸びやかに陽に向かって咲く向日葵のようでいれば良い。そなたの笑顔が曇ることのないようにするのが俺の務めだと思うておるのだが、なかなか守ってやれなくて申し訳ないと思うて―」
泰雅が口をつぐんだ。
「どうした、泉水。また泣いておるのか」
泰雅の言葉は、泉水の心の奥底にまで滲み込み、ゆっくりひろがってゆく。それにつれ、じんわりと心が温かくなる。
そうすると、自然と涙がこぼれ、泣けてきた。
「殿、私も殿をお守り致します。もし曲者が殿のお生命を狙うようなことがあれば、この身を楯にしてでも全力でお守り致しまする」
泉水は泰雅を真剣な瞳で見上げた。
「絶対に誰にも殿を傷つけたりはさせませぬ」
「そうか、泉水が俺を守ってくれるか」
泰は愉快そうに笑い、そっと泉水を引き寄せた。微笑ましい若夫婦の姿に、それまで傍に控えていた時橋はそっと次の間に退がり、静かに襖を閉める。
二人だけになった部屋で、泰雅が笑う。
「どうも今日のそなたはいつもと違うて、俺を嬉しがらせる甘い科白を囁いてくれるようだ。やはり、たまには怪我も良いものではないか、のう、泉水」
「殿、私は真剣に申し上げておるのでございますよ?」
泉水が泰雅の右腕を軽く叩いた。
「ツ」
刹那、泰雅がうめき声を上げ、腕を押さえて蹲る。
「申し訳ございませぬ。殿、殿、大丈夫にございますか?」
泉水が狼狽えると、腕を押さえたまま泰雅が肩を小刻みに震わせている。
「そんなに痛うございましたか?」
申し訳なさにまた涙ぐみそうになっていると、泰雅がうつむいたままで言う。
「泉水、こちらへ」
言われるままに近づくと、いきなり左手で強く抱き寄せられ、唇を奪われた。
「何を申すかと思えば、泉水、つくづくそなたらしくもないことを言う。なあ、泉水、俺の望みは、そなたがいつもそなたらしういることなのだ。そなたは、いつも太陽のように眩しく笑っていろ。伸びやかに陽に向かって咲く向日葵のようでいれば良い。そなたの笑顔が曇ることのないようにするのが俺の務めだと思うておるのだが、なかなか守ってやれなくて申し訳ないと思うて―」
泰雅が口をつぐんだ。
「どうした、泉水。また泣いておるのか」
泰雅の言葉は、泉水の心の奥底にまで滲み込み、ゆっくりひろがってゆく。それにつれ、じんわりと心が温かくなる。
そうすると、自然と涙がこぼれ、泣けてきた。
「殿、私も殿をお守り致します。もし曲者が殿のお生命を狙うようなことがあれば、この身を楯にしてでも全力でお守り致しまする」
泉水は泰雅を真剣な瞳で見上げた。
「絶対に誰にも殿を傷つけたりはさせませぬ」
「そうか、泉水が俺を守ってくれるか」
泰は愉快そうに笑い、そっと泉水を引き寄せた。微笑ましい若夫婦の姿に、それまで傍に控えていた時橋はそっと次の間に退がり、静かに襖を閉める。
二人だけになった部屋で、泰雅が笑う。
「どうも今日のそなたはいつもと違うて、俺を嬉しがらせる甘い科白を囁いてくれるようだ。やはり、たまには怪我も良いものではないか、のう、泉水」
「殿、私は真剣に申し上げておるのでございますよ?」
泉水が泰雅の右腕を軽く叩いた。
「ツ」
刹那、泰雅がうめき声を上げ、腕を押さえて蹲る。
「申し訳ございませぬ。殿、殿、大丈夫にございますか?」
泉水が狼狽えると、腕を押さえたまま泰雅が肩を小刻みに震わせている。
「そんなに痛うございましたか?」
申し訳なさにまた涙ぐみそうになっていると、泰雅がうつむいたままで言う。
「泉水、こちらへ」
言われるままに近づくと、いきなり左手で強く抱き寄せられ、唇を奪われた。