胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第16章 嵐
「殿?」
愕きに身動きもできないでいる泉水に、泰雅が弾けたように笑い始めた。
「引っかかったな。まだまだ泉水も甘い、甘い」
悪戯に成功したような得意顔の泰雅であった。泉水は、これには心底腹が立った。
「酷い。人が本気で心配したのに」
思わずまた右手を軽く叩いてしまい―、泰雅が顔をしかめるのに、今度は頬を膨らませたまま言った。
「どうせ、また芝居でございましょう?」
「いや、今のは本当に痛かった。本当だ」
「もう、また私をおからかいになって」
またしても手が飛んできそうなのに、泰雅が悲鳴を上げる。
「そうやって、いつも私をおからかいになってばかり、今日という今日は許せませぬ。死ぬほど心配したんですからね」
泉水が拳を振り回しながら追いかけ、泰雅が逃げ回る。
明るい笑い声に、当主が突然の災難に見舞われるという事件に衝撃を隠しきれなかった奥向きの女たちも漸く愁眉を開いたのだった。
愕きに身動きもできないでいる泉水に、泰雅が弾けたように笑い始めた。
「引っかかったな。まだまだ泉水も甘い、甘い」
悪戯に成功したような得意顔の泰雅であった。泉水は、これには心底腹が立った。
「酷い。人が本気で心配したのに」
思わずまた右手を軽く叩いてしまい―、泰雅が顔をしかめるのに、今度は頬を膨らませたまま言った。
「どうせ、また芝居でございましょう?」
「いや、今のは本当に痛かった。本当だ」
「もう、また私をおからかいになって」
またしても手が飛んできそうなのに、泰雅が悲鳴を上げる。
「そうやって、いつも私をおからかいになってばかり、今日という今日は許せませぬ。死ぬほど心配したんですからね」
泉水が拳を振り回しながら追いかけ、泰雅が逃げ回る。
明るい笑い声に、当主が突然の災難に見舞われるという事件に衝撃を隠しきれなかった奥向きの女たちも漸く愁眉を開いたのだった。