胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第17章 予期せぬ客人
「これ以上は、私からは申し上げられませぬ。奥方さま、どうか、お許し下さりませ。私は確かに殿のご養育を仰せつかった身にはございますが、あくまでも乳母、立場は使用人にすぎませぬ」
河嶋がその秘密を知っているのは明白であった。だが、こうまで言うものを無理に訊き出すことは躊躇われた。また、河嶋の律儀な気性からすれば、これ以上問いただしたとしても、絶対に話そうとはしないだろう。
「あい判った。済まぬ、そなたが話しとうもないことを色々と訊ねた」
泉水は礼を述べると、打掛の裾をさばいて立ち上がった。襖を開けて次の間に脚を踏み入れようとして、ふと気になって振り返る。
河嶋は何を考えいるのか、一輪の花を手に握りしめたまま、うつむいていた。障子越しに差し込む夕陽を浴びたその姿は、何故かひどく小さく淋しげに見えた。
「河嶋」
思わず名を呼ぶと、河嶋が弾かれたように顔を上げる。眼と眼が合うと、河嶋はうっすら笑んだ。
「殿にとって、そなたは大切な人であろう。身体を労って、長生きをして欲しい。私にもこれからもっと多くのことを教えてくれぬか」
「はい」
河嶋が平伏した。泉水は河嶋に微笑み返し、部屋を後にした。
河嶋がその秘密を知っているのは明白であった。だが、こうまで言うものを無理に訊き出すことは躊躇われた。また、河嶋の律儀な気性からすれば、これ以上問いただしたとしても、絶対に話そうとはしないだろう。
「あい判った。済まぬ、そなたが話しとうもないことを色々と訊ねた」
泉水は礼を述べると、打掛の裾をさばいて立ち上がった。襖を開けて次の間に脚を踏み入れようとして、ふと気になって振り返る。
河嶋は何を考えいるのか、一輪の花を手に握りしめたまま、うつむいていた。障子越しに差し込む夕陽を浴びたその姿は、何故かひどく小さく淋しげに見えた。
「河嶋」
思わず名を呼ぶと、河嶋が弾かれたように顔を上げる。眼と眼が合うと、河嶋はうっすら笑んだ。
「殿にとって、そなたは大切な人であろう。身体を労って、長生きをして欲しい。私にもこれからもっと多くのことを教えてくれぬか」
「はい」
河嶋が平伏した。泉水は河嶋に微笑み返し、部屋を後にした。