胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第18章 秘密
「幸せも長くは続かなんだ。つくづく呪われた我が身が厭わしいと、あの時は真に死んでしまいたいと思うものじゃ。許されぬ業を背負ったわらわと添うたばかりに、泰久さまはみすみす世を早められてしもうたのやもしれぬ。泰久さまは三十というお若さでご逝去になられ、その跡は泰雅どのが継いだ。その後のなりゆきは、そなたも知っておるとおりよ」
「お義母上さまに今一つだけお訊ね致します。ならば、なにゆえ、先代さまがお隠れあそばされた折も折、泰雅さまのお側から離れられたのでございますか? 泰雅さまは当時、まだ、たったの十二歳。頼りとするお父上を失われ、家督をお継ぎにはなったものの、さぞお心細くおわされたでしょう。それを、何故、義母上さままでが我が子をお見捨てになるようなことをなさったのですか!?」
言わずにはおれなかった。そのときの、泰雅の心中。それを思えば、あまりに切なかった。
と、景容院が突如として叫んだ。
「何を申すか、そなたのような小娘に何が判る? 泰雅どのに対して、このわらわがたとえ一度たりとも母親らしき感情を抱いたことがあると思うか? あの子の顔を見る度に、わらわは過去に苛まれ、罪の意識に苦しんだ。お優しき泰久さまを欺き、他の男の子を宿した身で妻となった。あの子が腹におる間、いっそのこと、腹の子が流れてくれれば、死んで生まれてくれればと幾たび願うたか判らぬ。あの子さえいなければ! 泰雅どのさえ生まれてこなければ、わらわはもっと幸せになれたはずなのじゃ。あの子が泰久さまを哀しませ、わらわを苦しめた。泰久さま亡き後、あのような忌まわしき呪われたさだめを持つ子の顔なぞ見とうもない。その一心で榊原の屋敷を出た」
あまりにも身勝手な言葉に、泉水は最早、返す言葉もなかった。
「何と、おいたわしい」
泉水の眼に涙が溢れ、頬を濡らした。
あまりにも泰雅が哀れであった。
生まれながらにして、母に疎まれ憎まれて生きねばならなかった。呪いの子と蔑まれ、母親としての愛情のかけらすら、与えれなかった。
「お義母上さまに今一つだけお訊ね致します。ならば、なにゆえ、先代さまがお隠れあそばされた折も折、泰雅さまのお側から離れられたのでございますか? 泰雅さまは当時、まだ、たったの十二歳。頼りとするお父上を失われ、家督をお継ぎにはなったものの、さぞお心細くおわされたでしょう。それを、何故、義母上さままでが我が子をお見捨てになるようなことをなさったのですか!?」
言わずにはおれなかった。そのときの、泰雅の心中。それを思えば、あまりに切なかった。
と、景容院が突如として叫んだ。
「何を申すか、そなたのような小娘に何が判る? 泰雅どのに対して、このわらわがたとえ一度たりとも母親らしき感情を抱いたことがあると思うか? あの子の顔を見る度に、わらわは過去に苛まれ、罪の意識に苦しんだ。お優しき泰久さまを欺き、他の男の子を宿した身で妻となった。あの子が腹におる間、いっそのこと、腹の子が流れてくれれば、死んで生まれてくれればと幾たび願うたか判らぬ。あの子さえいなければ! 泰雅どのさえ生まれてこなければ、わらわはもっと幸せになれたはずなのじゃ。あの子が泰久さまを哀しませ、わらわを苦しめた。泰久さま亡き後、あのような忌まわしき呪われたさだめを持つ子の顔なぞ見とうもない。その一心で榊原の屋敷を出た」
あまりにも身勝手な言葉に、泉水は最早、返す言葉もなかった。
「何と、おいたわしい」
泉水の眼に涙が溢れ、頬を濡らした。
あまりにも泰雅が哀れであった。
生まれながらにして、母に疎まれ憎まれて生きねばならなかった。呪いの子と蔑まれ、母親としての愛情のかけらすら、与えれなかった。