胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第18章 秘密
―逃げるだけの臆病者とそしられようと、私は愛する者と安らかに生きて参りたいと願うております。
そう言いきった泰雅の清々しい笑顔がまだ眼裏に残っていた。
確かに以前の泰雅とは微妙に違う。前に城中で見かけた彼は、翳りのある愁いに満ちた表情をしていることが多かった。それが、今はどうだろう、若者らしい溌剌とした覇気に溢れ、一点の曇りもない、実に良い表情をしている。女狂いとまで称された荒んだ生活を止めたからだけではなかろうが、今の日々が泰雅にとって充実した満ち足りたものであることは疑いようもない。
去年の春娶ったという槙野源太夫の娘が泰雅をそこまで変えたのだろうか。
特に女好きというわけでもない定親ではあるが、そう考えている中に、ふと泰雅を別人のように変えた女の顔を見てみたいものだと思った。
「―女、か」
定親は呟き、らしくもないことを考えた微苦笑を浮かべる。定親の妻は備前岡山藩の家老の娘であった。こう見えて、定親は大変な恐妻家である。ただ一人頭の上がらないのが妻なのだ。悋気の烈しい妻をはばかり、側女を置くことさえできないでいる。
「全く、女とは怖いものだ」
定親はもう一度、ほろ苦く微笑した。
そう言いきった泰雅の清々しい笑顔がまだ眼裏に残っていた。
確かに以前の泰雅とは微妙に違う。前に城中で見かけた彼は、翳りのある愁いに満ちた表情をしていることが多かった。それが、今はどうだろう、若者らしい溌剌とした覇気に溢れ、一点の曇りもない、実に良い表情をしている。女狂いとまで称された荒んだ生活を止めたからだけではなかろうが、今の日々が泰雅にとって充実した満ち足りたものであることは疑いようもない。
去年の春娶ったという槙野源太夫の娘が泰雅をそこまで変えたのだろうか。
特に女好きというわけでもない定親ではあるが、そう考えている中に、ふと泰雅を別人のように変えた女の顔を見てみたいものだと思った。
「―女、か」
定親は呟き、らしくもないことを考えた微苦笑を浮かべる。定親の妻は備前岡山藩の家老の娘であった。こう見えて、定親は大変な恐妻家である。ただ一人頭の上がらないのが妻なのだ。悋気の烈しい妻をはばかり、側女を置くことさえできないでいる。
「全く、女とは怖いものだ」
定親はもう一度、ほろ苦く微笑した。