胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第18章 秘密
「皆が俺を利用しようとする。いくら俺が逃げても、俺を放っておいてくれない。俺はどうしたら良い、どこまで逃げれば良いんだ」
呻くように言い、そこでハッと我に返ったような表情になった。
泉水は微笑んだ。
「どこにも逃げなくても良いではございませんか。殿は殿のままでいらっしゃれば良いのです。誰が来ようと、私が殿をお守り致しますゆえ」
「泉水、そなた―」
泰雅が息を呑んだ。
「そなた、昼間に母上を訪ねたとか申したな。一体、何用があって母上に逢ったのだ」
「私は殿の妻にござります。妻として、殿のお悩みやお苦しみはすべて共に受け止めたいと思うて、お母上さまをお訪ね致しました」
「余計なことをするな」
低い声だった。相当に苛立っているのが判る。
「私は殿の妻です。良人が何故、それほどに苦しんでいるのかを妻として知りたいと願うのは余計なことにございますか?」
逆らわない方が良いのは判っていたけれど、言わずにはおれなかった。
「妻、妻と偉そうに申すな」
泉水は唇を噛んだ。やはり、差し出たことだったのだろうか。結局、泉水一人が先走りして、泰雅の秘密を暴き立てたにすぎないのだろうか。
「妻だからこそ、知られたくないと思うことがある。惚れた女には男として知られたくないことがあるのだ。―そなたにだけは知られなくはなかった、泉水、そなたにだけは」
泰雅の声が揺れた。
深い瞳がふと、哀しみの色に翳った。
「そちは俺を蔑みはせぬのか? 俺は不義の子なのだぞ? 親子ほども歳の離れた伯父と姪の―、しかも仮にも義理とはいえ一度は父子の間柄となった男と女の間に生まれた子だ。まさに、生まれながらに呪われた子だった。あまりにもけがわらしい」
最後のひと言は、吐き捨てるように言う。
「それが、どうしたのでございますか?」
泉水は敢えて強い語調で言った。
泰雅は、がふいをつかれたようであった。
泉水の反応が意外だったのだろう。
呻くように言い、そこでハッと我に返ったような表情になった。
泉水は微笑んだ。
「どこにも逃げなくても良いではございませんか。殿は殿のままでいらっしゃれば良いのです。誰が来ようと、私が殿をお守り致しますゆえ」
「泉水、そなた―」
泰雅が息を呑んだ。
「そなた、昼間に母上を訪ねたとか申したな。一体、何用があって母上に逢ったのだ」
「私は殿の妻にござります。妻として、殿のお悩みやお苦しみはすべて共に受け止めたいと思うて、お母上さまをお訪ね致しました」
「余計なことをするな」
低い声だった。相当に苛立っているのが判る。
「私は殿の妻です。良人が何故、それほどに苦しんでいるのかを妻として知りたいと願うのは余計なことにございますか?」
逆らわない方が良いのは判っていたけれど、言わずにはおれなかった。
「妻、妻と偉そうに申すな」
泉水は唇を噛んだ。やはり、差し出たことだったのだろうか。結局、泉水一人が先走りして、泰雅の秘密を暴き立てたにすぎないのだろうか。
「妻だからこそ、知られたくないと思うことがある。惚れた女には男として知られたくないことがあるのだ。―そなたにだけは知られなくはなかった、泉水、そなたにだけは」
泰雅の声が揺れた。
深い瞳がふと、哀しみの色に翳った。
「そちは俺を蔑みはせぬのか? 俺は不義の子なのだぞ? 親子ほども歳の離れた伯父と姪の―、しかも仮にも義理とはいえ一度は父子の間柄となった男と女の間に生まれた子だ。まさに、生まれながらに呪われた子だった。あまりにもけがわらしい」
最後のひと言は、吐き捨てるように言う。
「それが、どうしたのでございますか?」
泉水は敢えて強い語調で言った。
泰雅は、がふいをつかれたようであった。
泉水の反応が意外だったのだろう。