胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第19章 すれちがい
が、泰雅を大切に思う気持ちと、夜にその求めに応じて脚を開くのとでは全く違う。泰雅を愛していれば、その愛する男に抱かれることはむしろ歓びであるはずなのに、何故か泉水にとっては苦痛でしかないのだった。そのすれちがいに、二人の間に生じた不幸の因(もと)があった。
その夜も泉水は一旦は夜伽を辞退した。気の進まぬことはあっても、実際に拒むことは滅多とない。というのも、拒めば、泰雅の機嫌がたちどころに悪しくなり、次の夜に更に辛い想いをしなければならないからだ。こんなことならば、少々気分が優れずとも、拒むのではなかった―と後悔することになる。
辛い想いを幾度か経験していたから、少々のことでは辞退したりはしない。が、その夜の体調は本当に思わしくなかったのだ。前夜の寝不足、更にその前日まで月のものの障りがあったゆえ、尚更、気持ちも沈んでいた。
一昨日の夜、月の障りが漸く終わるのを待ちかねたように、泰雅は泉水を抱いた。そして昨夜の容赦ない責め苦にも等しい一夜のせいで、泉水は心身共に疲れ果てていた。そのために、やむなく辞退したのだが、案の定、泰雅は激怒した。
泉水の願いは聞き届けられず、泉水はその夜も常のように泰雅を寝所に迎えることになった。整然とのべられた錦の夜具の傍らに座し、泉水は手をついて良人を迎える。また、今宵も汚辱の想いに耐えなければならないのかと考えただけで、気持ちが落ち込んでゆくようだ。
頭痛のせいか、吐き気までする。ふらつく身体を辛うじて意思の力だけで支えていた。
襖が静かに開き、泰雅が入ってきた。
一瞬、身体が強ばった。泰雅は泉水の傍に来ると、いきなり顎に手をかけて、グイと仰向かせた。
「気分が悪いと聞いたが、大事ないか」
さぞ怒っているだろうと覚悟していたにも拘わらず、思いの外機嫌も良く、優しい。
泉水は多少の戸惑いを憶えつつも、安堵した。
「ご心配をおかけして、申し訳ございませぬ。少々頭が痛みまして」
控えめに応える。が、泉水の言葉が終わるか終わらない中に、泰雅は泉水を抱き寄せる。身体の具合はと優しげに訊ねてくれたのが嘘のような―というか、端からその応えなど訊く気はなかった、つまり、ごく形式的に訊ねただけのようであった。
その夜も泉水は一旦は夜伽を辞退した。気の進まぬことはあっても、実際に拒むことは滅多とない。というのも、拒めば、泰雅の機嫌がたちどころに悪しくなり、次の夜に更に辛い想いをしなければならないからだ。こんなことならば、少々気分が優れずとも、拒むのではなかった―と後悔することになる。
辛い想いを幾度か経験していたから、少々のことでは辞退したりはしない。が、その夜の体調は本当に思わしくなかったのだ。前夜の寝不足、更にその前日まで月のものの障りがあったゆえ、尚更、気持ちも沈んでいた。
一昨日の夜、月の障りが漸く終わるのを待ちかねたように、泰雅は泉水を抱いた。そして昨夜の容赦ない責め苦にも等しい一夜のせいで、泉水は心身共に疲れ果てていた。そのために、やむなく辞退したのだが、案の定、泰雅は激怒した。
泉水の願いは聞き届けられず、泉水はその夜も常のように泰雅を寝所に迎えることになった。整然とのべられた錦の夜具の傍らに座し、泉水は手をついて良人を迎える。また、今宵も汚辱の想いに耐えなければならないのかと考えただけで、気持ちが落ち込んでゆくようだ。
頭痛のせいか、吐き気までする。ふらつく身体を辛うじて意思の力だけで支えていた。
襖が静かに開き、泰雅が入ってきた。
一瞬、身体が強ばった。泰雅は泉水の傍に来ると、いきなり顎に手をかけて、グイと仰向かせた。
「気分が悪いと聞いたが、大事ないか」
さぞ怒っているだろうと覚悟していたにも拘わらず、思いの外機嫌も良く、優しい。
泉水は多少の戸惑いを憶えつつも、安堵した。
「ご心配をおかけして、申し訳ございませぬ。少々頭が痛みまして」
控えめに応える。が、泉水の言葉が終わるか終わらない中に、泰雅は泉水を抱き寄せる。身体の具合はと優しげに訊ねてくれたのが嘘のような―というか、端からその応えなど訊く気はなかった、つまり、ごく形式的に訊ねただけのようであった。