
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第3章 《囚われた蝶》
「こんなのは嫌」
泉水は小刻みに身を震わせた。
いくら惚れた男にだとて、こんな風に無理強いされるのは嫌だ。真夜中に誰もおらぬ隙を狙って寝所に忍び入るなぞ、およそ良人のすることではない。
「何故、判らない? 俺はそなたを好きだと言ってるんだ。そなたは黙って大人しく抱かれれば良いではないか」
乱暴に引き寄せられ、泉水は泰雅の逞しい胸の中に倒れ込んだ。
腰に筋肉質の手が回り、力がこもる。
見かけは優男に見えるけれど、この手は刀を扱うことに慣れ、長けた相当の使い手に他ならない。切れ者―との噂どおり、この一見軽薄にも見える男は泉水になどは思いも及ばぬ素顔を隠し持っているのだろうか。
いきなり夜具の上に押し倒され、泉水は怯えた。泰雅の手がそろりと動き、胸のふくらみを包み込む。薄い寝衣の上から執拗に乳房をまさぐられ、その先端が固くなるのが判った。
熱い唇が頬から首筋を辿る。両手で貌を押さえつけられ、いやおうなく口づけられた。荒々しく口を塞がれているために、息さえできない。涙が溢れ、白い頬をつたった。
泰雅は泉水の口を開かせようとするが、泉水は固く口を引き結び一切の侵入を許さない。泰雅が小さく舌打ちした。
唇が離れたかと思うと、その手が前で結んだ帯にかかった。片手は相も変わらず乳房を執拗にまさぐりながら、もう片方の手で帯を解こうとする。
信じられなかった。この欲望だけで泉水を押し倒そうとする男が初めて見た優しげなあのひととはどうしても思えなかった。
帯がするすると解かれてゆく。大きくひろげられた襟元から白い二つのふくらみがこぼれ落ちた。その薄桃色の先端に泰雅が貌を寄せる。
「いやーっ」
泉水は泣きながら、首を左右に振った。
「時橋、時橋、助けて、助けてよ」
だが、その声も乳母には届かなかった。生憎、火の用心の見回りの時間にでもなっているのかもしれない。むろん、火の当番の女中は別に定められてはいるが、几帳面な時橋は毎夜、自らも泉水の部屋の近辺を自身で確かめるのを日課としているのだ。
大抵は夜も近くの部屋で寝み、泉水の様子に何くれとなく気を配る時橋なのに、今宵に限っていくら泣き叫んでも来ない。
泉水は小刻みに身を震わせた。
いくら惚れた男にだとて、こんな風に無理強いされるのは嫌だ。真夜中に誰もおらぬ隙を狙って寝所に忍び入るなぞ、およそ良人のすることではない。
「何故、判らない? 俺はそなたを好きだと言ってるんだ。そなたは黙って大人しく抱かれれば良いではないか」
乱暴に引き寄せられ、泉水は泰雅の逞しい胸の中に倒れ込んだ。
腰に筋肉質の手が回り、力がこもる。
見かけは優男に見えるけれど、この手は刀を扱うことに慣れ、長けた相当の使い手に他ならない。切れ者―との噂どおり、この一見軽薄にも見える男は泉水になどは思いも及ばぬ素顔を隠し持っているのだろうか。
いきなり夜具の上に押し倒され、泉水は怯えた。泰雅の手がそろりと動き、胸のふくらみを包み込む。薄い寝衣の上から執拗に乳房をまさぐられ、その先端が固くなるのが判った。
熱い唇が頬から首筋を辿る。両手で貌を押さえつけられ、いやおうなく口づけられた。荒々しく口を塞がれているために、息さえできない。涙が溢れ、白い頬をつたった。
泰雅は泉水の口を開かせようとするが、泉水は固く口を引き結び一切の侵入を許さない。泰雅が小さく舌打ちした。
唇が離れたかと思うと、その手が前で結んだ帯にかかった。片手は相も変わらず乳房を執拗にまさぐりながら、もう片方の手で帯を解こうとする。
信じられなかった。この欲望だけで泉水を押し倒そうとする男が初めて見た優しげなあのひととはどうしても思えなかった。
帯がするすると解かれてゆく。大きくひろげられた襟元から白い二つのふくらみがこぼれ落ちた。その薄桃色の先端に泰雅が貌を寄せる。
「いやーっ」
泉水は泣きながら、首を左右に振った。
「時橋、時橋、助けて、助けてよ」
だが、その声も乳母には届かなかった。生憎、火の用心の見回りの時間にでもなっているのかもしれない。むろん、火の当番の女中は別に定められてはいるが、几帳面な時橋は毎夜、自らも泉水の部屋の近辺を自身で確かめるのを日課としているのだ。
大抵は夜も近くの部屋で寝み、泉水の様子に何くれとなく気を配る時橋なのに、今宵に限っていくら泣き叫んでも来ない。
