
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第3章 《囚われた蝶》
何故か、その時、唐突に泉水の瞼に一人の少年の笑顔がよぎった。
はにかんだように微笑む少年、話したことはほんの数度なのに、その笑顔がとても懐かしかった。
「祐次郎さま―」
が、泰雅はその呟きを耳ざとく聞き取ったようだ。ぎらつく眼で射貫くように泉水を見据えた。
「祐次郎とは誰だ?」
覆い被さった泰雅から泉水は貌を背けた。
「あなたなんか―祐次郎さまとは大違い」
呟くと、泰雅の整った顔が怒りと屈辱に紅く染まった。
「何だと、俺と他の男を比べるのか? そやつの方が俺よりも良いと?」
「あ―」
泉水が恐怖に貌を引きつらせた
本気で泰雅を怒らせてしまった。烈しい形相から、男が心底から憤っているのが判る。
「二度とそなたの口からそのような言葉、言えなくしてやるわ」
泰雅が低い声で呟いた。それは、まるで地獄の底から響いてくるように不気味に響く。
乱暴に押さえつけられた泉水は怯えて、身を固くした。どれほど逃れようとあがいても、圧倒的な力で押さえ込まれていて、身動き一つできない。泉水の豊かな丈なす黒髪がまるで意思を持つ生き物のようにうねり、畳の上にひろがる。くぐもった悲鳴は塞がれた泰雅の唇に飲み込まれ、やがて聞こえなくなった。
夜の闇がまたひときわ深まったようであった。
泉水は涙の滲んだ瞳を二、三度またたかせた。昨夜の泰雅の所業を思い起こす度に、恐怖と哀しみがひたひたと押し寄せる。
いや、恐怖よりもやるせない絶望、哀しみの方が絶対的に大きい。泣いて抵抗する泉水を泰雅は押さえつけ、力でねじ伏せ、欲しいままにした。手込めも同然に身体を開かされ、奪われたのだ。
たとえ心から惚れた男にだとて、あんな手込めのような扱いをされたくはない。昨夜の出来事は、泉水の心身に大きな傷痕を残した。
一体、何が泰雅をああまで烈しく駆り立てたのだろう。何故、もう少し泉水の気持ちを思いやってくれなかったのか。
はにかんだように微笑む少年、話したことはほんの数度なのに、その笑顔がとても懐かしかった。
「祐次郎さま―」
が、泰雅はその呟きを耳ざとく聞き取ったようだ。ぎらつく眼で射貫くように泉水を見据えた。
「祐次郎とは誰だ?」
覆い被さった泰雅から泉水は貌を背けた。
「あなたなんか―祐次郎さまとは大違い」
呟くと、泰雅の整った顔が怒りと屈辱に紅く染まった。
「何だと、俺と他の男を比べるのか? そやつの方が俺よりも良いと?」
「あ―」
泉水が恐怖に貌を引きつらせた
本気で泰雅を怒らせてしまった。烈しい形相から、男が心底から憤っているのが判る。
「二度とそなたの口からそのような言葉、言えなくしてやるわ」
泰雅が低い声で呟いた。それは、まるで地獄の底から響いてくるように不気味に響く。
乱暴に押さえつけられた泉水は怯えて、身を固くした。どれほど逃れようとあがいても、圧倒的な力で押さえ込まれていて、身動き一つできない。泉水の豊かな丈なす黒髪がまるで意思を持つ生き物のようにうねり、畳の上にひろがる。くぐもった悲鳴は塞がれた泰雅の唇に飲み込まれ、やがて聞こえなくなった。
夜の闇がまたひときわ深まったようであった。
泉水は涙の滲んだ瞳を二、三度またたかせた。昨夜の泰雅の所業を思い起こす度に、恐怖と哀しみがひたひたと押し寄せる。
いや、恐怖よりもやるせない絶望、哀しみの方が絶対的に大きい。泣いて抵抗する泉水を泰雅は押さえつけ、力でねじ伏せ、欲しいままにした。手込めも同然に身体を開かされ、奪われたのだ。
たとえ心から惚れた男にだとて、あんな手込めのような扱いをされたくはない。昨夜の出来事は、泉水の心身に大きな傷痕を残した。
一体、何が泰雅をああまで烈しく駆り立てたのだろう。何故、もう少し泉水の気持ちを思いやってくれなかったのか。
