胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第21章 新しい生活
そのときこそ、泉水は晴れて自由の身になり得るのだ。しかし、今の状態では泰雅にそんなことを頼める状況ではなく、裏腹に泰雅に見つからぬように身を隠していなければならない有り様なのだ。
もし泰雅に見つかれば、泉水はすぐに連れ戻されてしまうかもしれない。何より、泉水は泰雅を怖いと思った。自分を裏切った泉水をあの男はけして許しはすまい。怒りのあまり、殺されるのであれば、まだしもマシだ。
泉水がいちばん怖れるのは、再びあの生活―汚辱の想いに耐えなければならなくなるということに他ならない。
夜が来る度に、泰雅の前に身体を投げ出し、陵辱の限りを尽くされる日々。もう二度と、あんな辛い想いだけはしたくない。あの生活に戻るくらいなら、無礼討ちにされた方が良い。
一体、いつになったら、自分は本当の意味で自由の身になれるのだろうか。泰雅の影に怯えることもなく、陽光の下を晴れやかに闊歩することができるのだろうか。果たして、そんな日が本当に来るのだろうか。
考えていたら、泣き出したくなってしまう。
―そんな弱気では駄目、駄目。
涙が溢れかけ、泉水は我が身を叱咤した。人さし指でそっと涙をぬぐう。
時橋のお小言が無性に懐かしくなるのは、こんなときだ。
―姫さま、また、そのようなところにおいでになられて。一体、幾度同じことを申し上げたら、お判りになられるのですか? あれほど木登りなどなさっては危ないと申し上げたでございましょう。
誰はばかることなく木に登れるのは良いけれど、時にはああやって口うるさく言ってくれる人が傍にいないのは辛い。本当に自分は一人ぼっちなのだと孤独をひしひしと感じる。
その時、唐突に下から叫び声がして、泉水は我に返った。
「おーい、危ねえじゃないか、そんなところで何してるんだ?」
聞き憶えのある声に、泉水は微笑する。
いたいた、こんなところにも時橋の代わりを務めるかのように、何かとお小言をくれる人がいたのだ。
泉水は笑って、手を振る。
「大丈夫よって、何度言ったら、判るんですか?」
もし泰雅に見つかれば、泉水はすぐに連れ戻されてしまうかもしれない。何より、泉水は泰雅を怖いと思った。自分を裏切った泉水をあの男はけして許しはすまい。怒りのあまり、殺されるのであれば、まだしもマシだ。
泉水がいちばん怖れるのは、再びあの生活―汚辱の想いに耐えなければならなくなるということに他ならない。
夜が来る度に、泰雅の前に身体を投げ出し、陵辱の限りを尽くされる日々。もう二度と、あんな辛い想いだけはしたくない。あの生活に戻るくらいなら、無礼討ちにされた方が良い。
一体、いつになったら、自分は本当の意味で自由の身になれるのだろうか。泰雅の影に怯えることもなく、陽光の下を晴れやかに闊歩することができるのだろうか。果たして、そんな日が本当に来るのだろうか。
考えていたら、泣き出したくなってしまう。
―そんな弱気では駄目、駄目。
涙が溢れかけ、泉水は我が身を叱咤した。人さし指でそっと涙をぬぐう。
時橋のお小言が無性に懐かしくなるのは、こんなときだ。
―姫さま、また、そのようなところにおいでになられて。一体、幾度同じことを申し上げたら、お判りになられるのですか? あれほど木登りなどなさっては危ないと申し上げたでございましょう。
誰はばかることなく木に登れるのは良いけれど、時にはああやって口うるさく言ってくれる人が傍にいないのは辛い。本当に自分は一人ぼっちなのだと孤独をひしひしと感じる。
その時、唐突に下から叫び声がして、泉水は我に返った。
「おーい、危ねえじゃないか、そんなところで何してるんだ?」
聞き憶えのある声に、泉水は微笑する。
いたいた、こんなところにも時橋の代わりを務めるかのように、何かとお小言をくれる人がいたのだ。
泉水は笑って、手を振る。
「大丈夫よって、何度言ったら、判るんですか?」