
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第21章 新しい生活
それ以来、篤次は、様子を見がてら、泉水を再々訪ねてくるようになった。
よく二人でいるところを他の村人に見つかり、冷やかされることがあった。
―篤さん、女先生が心配だとか何とか言って、本当はお前の方こそ妙な下心があるんじゃねえのか?
一度、そう言ってからかった中年の男に、篤次は顔色を変えて本気で怒鳴った。
―良い加減なことを言うのは止めろよ。そんなことを言われちゃア、女先生も迷惑だぜ。
―だが、他の連中も言ってるぜ。今まで、どんな女にも見向きもしなかった篤さんがあれほど世話を焼きたがるのは、大方、本気に違(ちげ)えねえ、ありゃア、ひとめ惚れだってな。
―何だとォ。
殴りかかってゆきそうな見幕の篤次を、泉水は横から止めた。
―篤次さん、お願いだから、止めて。私なら良いの。別に構わないし、全然気にしてないですから。
そのひと言で漸く篤次は、握りしめた拳を引っ込めたのだ。
泉水が篤次との出逢いを懐かしく思い返していた時、篤次の声が耳を打った。
―いつか、お互いに夢が叶うと良いな。
遠からず妹を呼び寄せたいのだと篤次から聞いたその日、話の後で、篤次がポツリと呟いた。それは泉水にいうより、むしろ篤次が自分自身に向けて語った言葉のようでもあった。
―そうね、篤次さんも妹さんと一緒に暮らせるようになれば良いですね。
泉水も微笑んで相槌を打ちながら、心の中で本当にそんな日が早く来ることを願わずにはいられなかった。
篤次と妹のおきくは、子どもの時分に別れてからというもの、一度も逢ったことがない。実のところ、篤次は妹が今、達者かどうかさえ詳しいことは知らないのだった。おきくを江戸に連れていった女衒は三年前に賭場での諍いに巻き込まれて、亡くなった。
その女衒が話していたところによれば、深川の岡場所にいるそうだ。
だが、その話を聞いてから既に三年以上の年月が経っている。元々、女衒がこの村に来て、おきくを江戸に連れていってから売ったのも、深川の同じその見世であった無事であれば、同じ見世にいるだろう。
よく二人でいるところを他の村人に見つかり、冷やかされることがあった。
―篤さん、女先生が心配だとか何とか言って、本当はお前の方こそ妙な下心があるんじゃねえのか?
一度、そう言ってからかった中年の男に、篤次は顔色を変えて本気で怒鳴った。
―良い加減なことを言うのは止めろよ。そんなことを言われちゃア、女先生も迷惑だぜ。
―だが、他の連中も言ってるぜ。今まで、どんな女にも見向きもしなかった篤さんがあれほど世話を焼きたがるのは、大方、本気に違(ちげ)えねえ、ありゃア、ひとめ惚れだってな。
―何だとォ。
殴りかかってゆきそうな見幕の篤次を、泉水は横から止めた。
―篤次さん、お願いだから、止めて。私なら良いの。別に構わないし、全然気にしてないですから。
そのひと言で漸く篤次は、握りしめた拳を引っ込めたのだ。
泉水が篤次との出逢いを懐かしく思い返していた時、篤次の声が耳を打った。
―いつか、お互いに夢が叶うと良いな。
遠からず妹を呼び寄せたいのだと篤次から聞いたその日、話の後で、篤次がポツリと呟いた。それは泉水にいうより、むしろ篤次が自分自身に向けて語った言葉のようでもあった。
―そうね、篤次さんも妹さんと一緒に暮らせるようになれば良いですね。
泉水も微笑んで相槌を打ちながら、心の中で本当にそんな日が早く来ることを願わずにはいられなかった。
篤次と妹のおきくは、子どもの時分に別れてからというもの、一度も逢ったことがない。実のところ、篤次は妹が今、達者かどうかさえ詳しいことは知らないのだった。おきくを江戸に連れていった女衒は三年前に賭場での諍いに巻き込まれて、亡くなった。
その女衒が話していたところによれば、深川の岡場所にいるそうだ。
だが、その話を聞いてから既に三年以上の年月が経っている。元々、女衒がこの村に来て、おきくを江戸に連れていってから売ったのも、深川の同じその見世であった無事であれば、同じ見世にいるだろう。
