
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第21章 新しい生活
身体を売って生きてゆく女の不幸と比べる方がおかしいのだろうか。それでも、泉水は、心のどこかで、年季が明ければ抱え主からも解放され、自由の身になれるというおきくを少しだけ羨ましく思わずにはいられなかった。
想いに沈む泉水を、篤次が痛ましげに見つめていた。そのことに、その時、泉水は全く気付いていなかった。
「おい、女先生? おいってば」
耳許で大きな声がして、泉水は飛び上がらんばかりに愕いた。
「やだ、篤次さん、耳の傍で、そんな大声を出さないで下さいよ」
頬を膨らませると、篤次が軽く睨んだ。
「だってよ、女先生はいつも、何の前触れもなしに、あっちの世界にいっちまうからさ」
「まっ、あっちの世界だなんて、人を幽霊みたいな言い方しないで下さいね!」
泉水は益々むくれる。
「悪ィ、悪ィ。だが、本当なんだぜ。今みたいに話してても、急に黙り込んでさ。そりゃア、何か考え事をしてるのは俺にも判るけど。まるで魂が抜けたみたく、ボーッとしてるから、心配になるんだ」
「ごめんなさい。初めてこの村に来た日のことや、色んなことを思い出してたの。ここに住むようになって、もう半月にもなるんだなって考えたら、一辺に色んなことを思い出してしまって。篤次さんには本当に何から何までお世話になって、感謝しています」
泉水が真剣な面持ちで言うと、篤次の陽に灼けた精悍な顔がうっすらと染まった。
「あ、いや―。その、何だ、いつもは、跳ねっ返りの女先生がそんな風にしおらしいと何だか俺まで調子が狂っちまうじゃねえか」
篤次が素っ頓狂な声を上げる。あからさまに礼を言われて、照れているのだろう。どのような反応をしたら良いか判らず、冗談に紛らわせようとする篤次を泉水は微笑して見ていた。
泉水は、ここに来た理由にしろ、自分の身許など一切を篤次に話してはいない。
ただ〝泉水〟という名のみを教えているだけだ。それなのに、篤次を初め人の好い村長も村人たちの誰もが泉水を〝新しい寺子屋の女先生〟として受け容れてくれている。上物の着物を着て、しかも女でありながら男装して現れた泉水を最初は奇異な眼で見る者もいた。
想いに沈む泉水を、篤次が痛ましげに見つめていた。そのことに、その時、泉水は全く気付いていなかった。
「おい、女先生? おいってば」
耳許で大きな声がして、泉水は飛び上がらんばかりに愕いた。
「やだ、篤次さん、耳の傍で、そんな大声を出さないで下さいよ」
頬を膨らませると、篤次が軽く睨んだ。
「だってよ、女先生はいつも、何の前触れもなしに、あっちの世界にいっちまうからさ」
「まっ、あっちの世界だなんて、人を幽霊みたいな言い方しないで下さいね!」
泉水は益々むくれる。
「悪ィ、悪ィ。だが、本当なんだぜ。今みたいに話してても、急に黙り込んでさ。そりゃア、何か考え事をしてるのは俺にも判るけど。まるで魂が抜けたみたく、ボーッとしてるから、心配になるんだ」
「ごめんなさい。初めてこの村に来た日のことや、色んなことを思い出してたの。ここに住むようになって、もう半月にもなるんだなって考えたら、一辺に色んなことを思い出してしまって。篤次さんには本当に何から何までお世話になって、感謝しています」
泉水が真剣な面持ちで言うと、篤次の陽に灼けた精悍な顔がうっすらと染まった。
「あ、いや―。その、何だ、いつもは、跳ねっ返りの女先生がそんな風にしおらしいと何だか俺まで調子が狂っちまうじゃねえか」
篤次が素っ頓狂な声を上げる。あからさまに礼を言われて、照れているのだろう。どのような反応をしたら良いか判らず、冗談に紛らわせようとする篤次を泉水は微笑して見ていた。
泉水は、ここに来た理由にしろ、自分の身許など一切を篤次に話してはいない。
ただ〝泉水〟という名のみを教えているだけだ。それなのに、篤次を初め人の好い村長も村人たちの誰もが泉水を〝新しい寺子屋の女先生〟として受け容れてくれている。上物の着物を着て、しかも女でありながら男装して現れた泉水を最初は奇異な眼で見る者もいた。
