胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第21章 新しい生活
どう見ても、武家の娘らしい若い女がたった一人で、こんな村までやってくるとは、よくよくの理由(わけ)ありに違いない。
それは、誰でも考えたことだろう。それでも、村人たちは深い詮索もせず、あからさまな好奇の眼で見たりもせず、ごく自然に村の新しい仲間として受け止めてくれた。そのことが、泉水にとっては、どれほどありがたいと思ったことか。
泉水が意外にもこんなに早く村に馴染めたのは、篤次の存在が大きかった。篤次は村の若者の中でも働き者で陰陽なたのないところから、人望がある。村長の家にもよく出入りし、気に入られていたから、その篤次が連れてきて、しかも後押ししているとあれば信用できる―と、泉水を皆が好意的に受け容れてくれたのだ。
そして、篤次はいまだに再々やってきては、何か困ったことはないかと訊ねてくれる。それは、泉水を村の若い男たちの不躾な視線から守るためでもあった。いくら新しい村の住人として認められたからといって、泉水がよそ者であるという事実は変わらない。
村には働き盛りの若者がいるが、そういった男たちが泉水を見る眼には、いつもというわけではないが、危険な光があった。それはは獲物が隙を見せれば、飛びかかろうとする獣の瞳にも似ている。もっとも、泉水自身はそんな男たちの自分に向ける舌なめずりするような視線には一向に気付いていない。
そこが、篤次が懸念するところであった。この一風変わった娘は、自分がどれほど男を惹きつけるかを全く判っていない。無防備というか無頓着というのか、他人を疑うことを全く知らないらしい。
男には懲りているとか言いながら、その実、男という生きものについては何も判ってはいないのだ。その分、余計に自分が守ってやらねばと、篤次は思うのだった。
そんなわけで、泉水は篤次には、どれだけ感謝しても足りないくらいだと思っている。
ふいにニャーと鳴き声を上げて、黒猫が足許にすり寄ってきた。丸くて、くりくりとした眼が愛らしいが、飼い猫ではない。野良猫ではあるが、どういうわけか泉水に懐き、いつしか居候を決め込んでいた。
それは、誰でも考えたことだろう。それでも、村人たちは深い詮索もせず、あからさまな好奇の眼で見たりもせず、ごく自然に村の新しい仲間として受け止めてくれた。そのことが、泉水にとっては、どれほどありがたいと思ったことか。
泉水が意外にもこんなに早く村に馴染めたのは、篤次の存在が大きかった。篤次は村の若者の中でも働き者で陰陽なたのないところから、人望がある。村長の家にもよく出入りし、気に入られていたから、その篤次が連れてきて、しかも後押ししているとあれば信用できる―と、泉水を皆が好意的に受け容れてくれたのだ。
そして、篤次はいまだに再々やってきては、何か困ったことはないかと訊ねてくれる。それは、泉水を村の若い男たちの不躾な視線から守るためでもあった。いくら新しい村の住人として認められたからといって、泉水がよそ者であるという事実は変わらない。
村には働き盛りの若者がいるが、そういった男たちが泉水を見る眼には、いつもというわけではないが、危険な光があった。それはは獲物が隙を見せれば、飛びかかろうとする獣の瞳にも似ている。もっとも、泉水自身はそんな男たちの自分に向ける舌なめずりするような視線には一向に気付いていない。
そこが、篤次が懸念するところであった。この一風変わった娘は、自分がどれほど男を惹きつけるかを全く判っていない。無防備というか無頓着というのか、他人を疑うことを全く知らないらしい。
男には懲りているとか言いながら、その実、男という生きものについては何も判ってはいないのだ。その分、余計に自分が守ってやらねばと、篤次は思うのだった。
そんなわけで、泉水は篤次には、どれだけ感謝しても足りないくらいだと思っている。
ふいにニャーと鳴き声を上げて、黒猫が足許にすり寄ってきた。丸くて、くりくりとした眼が愛らしいが、飼い猫ではない。野良猫ではあるが、どういうわけか泉水に懐き、いつしか居候を決め込んでいた。