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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第22章 散紅葉(ちるもみじ)

 泰雅の手が乱暴に泉水の襟許をくつろげ、押し開く。泉水は愕き、抗った。
「殿、もう、このようなことはお止め下さいませ!」
 懸命に抗いながら訴えた時、突如として右頬に鋭い痛みを感じた。泰雅に殴られたのだ。一瞬、眼の前に白い火花が散る。
「いやっ、助けてっ。誰か、助けて―」
 泉水は悲鳴を上げ、助けを求めようとした。
 泰雅は舌打ちを聞かせ、腰に挟んでいた絹の布を泉水の口に押し込む。
「―!!」
 泉水の眼から大粒の涙が次々に溢れ、したたり落ちた。帯が解かれ、寝衣の前がくつろげられる。その帯で、両手まで持ち上げられた形で縛められた。
 泰雅が陶然とした表情で、泉水を見つめている。
「泉水、きれいだ、泉水―」
 乳房を口に含まれ、泉水は烈しく首を振って泣き叫んだ。
 生温かい口で吸われ、たまらなく嫌悪感を催す。
―どうして、どうして、こんな酷い目に遭わなければならないの? 私は何も悪いことをしたわけではないのに。
 殴られ、物も言えない状態で、手さえ縛られて、陵辱される―、それほどまでの恥辱を受けねばならぬことを、自分がしたというのだろうか?
 泉水の心の中で何かが壊れた瞬間だった。
 それは、恐らくは、泰雅に対する絶望であったろう。
 この期に及ぶまで、泉水の中にはまだ泰雅への想いが確かにあった。しかし、この心ない仕打ちでわずかに残っていたその気持ちも消え果てた。
 必死で抗いながらも、身体の自由を奪われた身では、なすすべもなかった。次第に烈しくなる男の抱擁を、泉水はどうすることもできなかった。
 泰雅の手が膚をまさぐる。乱暴に脚を押し広げられ、高々と持ち上げられる。深く刺し貫かれる瞬間、泉水の瞼に浮かんだのは、朴訥な男の笑顔と、男と一緒に見た色鮮やかな紅葉であった。
 固く閉じた泉水の眼裏で、真っ赤に色づいた葉がはらはらと散っていた。

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