胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第23章 山茶花(さざんか)の寺
光照のためなら、生命だって惜しくはない。泉水もまた伊左久と同様、光照に言葉には尽くせない恩義を感じている。
「おせんちゃんは見かけによらず几帳面だからな」
伊左久の言葉に、泉水は眼を見開いた。
「まっ、伊左久さん、それは、どういう意味ですか? 幾ら伊左久さんといえども、聞き捨てならない言葉ですけど」
伊左久は声を上げて笑う。
「なに、言葉どおりだ。だがな、おせんちゃん、そのお陰で、お前さんが来てから、この寺は随分と綺麗になった。儂が一人で何から何までやっていた頃とは違う、流石に女手があると、どこもかしこも、こうまで見違えるようになるかと愕いてるよ」
泉水は見かけは大らかで、可愛らしい娘だ。無邪気ともいえる愛らしさを見せ、それが泉水を歳よりは幾分幼く見せている。だが、内面は筋の通った、凛としたものを持っている。気性も几帳面で、一度任された仕事や役目はきっちりと最後まで責任もってこなす。それは、掃除一つ取っても、よく表れている。
また、その可憐で愛らしい外見とは別に、時折、老いた伊左久さえハッとするほどの妖艶な女の顔を見せた。当人が無意識の中に見せている別の顔だけに、余計に厄介だ。恐らくは―泉水がこの寺まで流れてくる原因となった男は、泉水のそんな部分に執着しているのだろう。
「それって、賞められているのかしら」
泉水が頬を膨らませると、伊左久は笑った。
「もちろん、賞めてるんだよ」
伊左久が言い、泉水は肩をすくめた。
「本当かしら」
疑わしそうな口ぶりに、伊左久がにやにやしている。
「それにしても、山茶花が終わってしまうと、淋しくなりましたね」
泉水が来た日には盛りと咲いていた花は、今はもう殆ど散ってしまった。今、小さな庭に花はない。泉水は庭を見回しながら嘆息した。
伊左久が宥めるように言った。
「そうだな、四月には、ここのお寺はそれは見事になるぞ」
「四月に?」
問い返すと、伊左久は頷いた。
「おせんちゃんは見かけによらず几帳面だからな」
伊左久の言葉に、泉水は眼を見開いた。
「まっ、伊左久さん、それは、どういう意味ですか? 幾ら伊左久さんといえども、聞き捨てならない言葉ですけど」
伊左久は声を上げて笑う。
「なに、言葉どおりだ。だがな、おせんちゃん、そのお陰で、お前さんが来てから、この寺は随分と綺麗になった。儂が一人で何から何までやっていた頃とは違う、流石に女手があると、どこもかしこも、こうまで見違えるようになるかと愕いてるよ」
泉水は見かけは大らかで、可愛らしい娘だ。無邪気ともいえる愛らしさを見せ、それが泉水を歳よりは幾分幼く見せている。だが、内面は筋の通った、凛としたものを持っている。気性も几帳面で、一度任された仕事や役目はきっちりと最後まで責任もってこなす。それは、掃除一つ取っても、よく表れている。
また、その可憐で愛らしい外見とは別に、時折、老いた伊左久さえハッとするほどの妖艶な女の顔を見せた。当人が無意識の中に見せている別の顔だけに、余計に厄介だ。恐らくは―泉水がこの寺まで流れてくる原因となった男は、泉水のそんな部分に執着しているのだろう。
「それって、賞められているのかしら」
泉水が頬を膨らませると、伊左久は笑った。
「もちろん、賞めてるんだよ」
伊左久が言い、泉水は肩をすくめた。
「本当かしら」
疑わしそうな口ぶりに、伊左久がにやにやしている。
「それにしても、山茶花が終わってしまうと、淋しくなりましたね」
泉水が来た日には盛りと咲いていた花は、今はもう殆ど散ってしまった。今、小さな庭に花はない。泉水は庭を見回しながら嘆息した。
伊左久が宥めるように言った。
「そうだな、四月には、ここのお寺はそれは見事になるぞ」
「四月に?」
問い返すと、伊左久は頷いた。