
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
今日は光照の客人が訪れると耳にしている。もしや、この男はその客人で、光照の身内だとかいう人ではと思うと、我が身の愚かさが情けない。一体、何という粗相をしてしまったのか。
ハッとして顔を上げ、恐る恐るぶつかった相手を見上げる。愕くほどの長身だ。うずくまって手をついた泉水の状態では、見上げるだけで、殆どのけぞるような恰好になった。
「あ―」
泉水は愕きのあまり、小さな声を上げた。
優しげな笑顔が見下ろしている。身体中の力が抜けるような安堵感に包まれた。
へなへなとその場にくずおれた泉水に向かって、長身の男が屈託なく笑いかけた。
「久しぶりだな、姐(ねえ)さん」
まるで昨日逢って、別れたばかりのような口調である。
「あなたは夢五郎さん?」
愕きのあまり、声も出ない有り様だ。
夢売りの夢五郎。忘れようとしても、なかなか忘れられない印象的な男だった。
夢五郎に出逢ったのは、一昨年の五月の初めのことになる。江戸の町中で夢札を売っていた夢売りの男こそが、この夢五郎であった。あのときは紫と紺の格子縞の女物の着物に男物の細帯、おまけに紺と紫の紐で髻を束ねるという、とんでもない奇抜かつ珍妙ないでたちをしていた。本人いわく〝女には興味がなく、若くて綺麗な男の子だけを相手にしてきた〟とのたまい、何とも怪しい陰間(?)だと、泉水は最初から思い切り退いていたのだが。
実は、この男、存外に常識的なことを言い、母親に捨てられた幼い少女の母親探しに奔走していた泉水に、何くれとなく適切な助言をくれた。夢五郎との出逢いは、泉水がこの男から一枚の夢札を貰ったことから始まる。その藤の絵の描かれた小さな木札が少女の母親探しに役に立った。
夢五郎の売る夢札に描かれた絵は、買った人の夢、もしくは未来を暗示するという。それが眠っている間に見る夢なのか、はたまはた、その人の将来なのかは、それぞれの人によって異なると、夢五郎は話していた。
あの出逢いから、既に二年近くが過ぎようとしている。その間、泉水にはありすきるほどに多くのことがあった。良人と別れ、榊原の屋敷を出て、江戸から離れた。
そして、今、江戸からは遠く隔たった山の寺にいる。この夢五郎は、どこで何をしていたのだろうか。
ハッとして顔を上げ、恐る恐るぶつかった相手を見上げる。愕くほどの長身だ。うずくまって手をついた泉水の状態では、見上げるだけで、殆どのけぞるような恰好になった。
「あ―」
泉水は愕きのあまり、小さな声を上げた。
優しげな笑顔が見下ろしている。身体中の力が抜けるような安堵感に包まれた。
へなへなとその場にくずおれた泉水に向かって、長身の男が屈託なく笑いかけた。
「久しぶりだな、姐(ねえ)さん」
まるで昨日逢って、別れたばかりのような口調である。
「あなたは夢五郎さん?」
愕きのあまり、声も出ない有り様だ。
夢売りの夢五郎。忘れようとしても、なかなか忘れられない印象的な男だった。
夢五郎に出逢ったのは、一昨年の五月の初めのことになる。江戸の町中で夢札を売っていた夢売りの男こそが、この夢五郎であった。あのときは紫と紺の格子縞の女物の着物に男物の細帯、おまけに紺と紫の紐で髻を束ねるという、とんでもない奇抜かつ珍妙ないでたちをしていた。本人いわく〝女には興味がなく、若くて綺麗な男の子だけを相手にしてきた〟とのたまい、何とも怪しい陰間(?)だと、泉水は最初から思い切り退いていたのだが。
実は、この男、存外に常識的なことを言い、母親に捨てられた幼い少女の母親探しに奔走していた泉水に、何くれとなく適切な助言をくれた。夢五郎との出逢いは、泉水がこの男から一枚の夢札を貰ったことから始まる。その藤の絵の描かれた小さな木札が少女の母親探しに役に立った。
夢五郎の売る夢札に描かれた絵は、買った人の夢、もしくは未来を暗示するという。それが眠っている間に見る夢なのか、はたまはた、その人の将来なのかは、それぞれの人によって異なると、夢五郎は話していた。
あの出逢いから、既に二年近くが過ぎようとしている。その間、泉水にはありすきるほどに多くのことがあった。良人と別れ、榊原の屋敷を出て、江戸から離れた。
そして、今、江戸からは遠く隔たった山の寺にいる。この夢五郎は、どこで何をしていたのだろうか。
