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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第24章 再会

「ああ、姐さんは何も悪くはねえよ。ただ、これだけは言っておくが、確かに色々な考え方はある。―とは言っても、姐さんの言うように大部分の人間は、姐さんの言い分は理解はできねえだろう。現に私も―酷いことを言うようだが、姐さんの言い分を認めることはできても、受け容れることはできない。私は元旦那とは違うから、幾ら惚れていても、そこまで嫌がる姐さんに無理強いしようとは思わない。だが、そんな女と一つ屋根の下に暮らすのもご免だ。男なら、大抵は我慢ができなくなっちまうだろうことが端から判るからさ。惚れた女と一つ屋根の下にいて、しかも夫婦として暮らしながら、指一本触れることができねえというのは確かに男にとっては地獄だぜ。だから、姐さんの旦那と別れて、家を出るという選択は正しかったと思う」
「―」
 黙り込んだ泉水に、夢五郎が優しく言った。
「きついことを言っちまったかな」
 短い沈黙の後、泉水はかすかにかぶりを降った。
「いいえ、私はやっぱり夢五郎さんに逢えて、良かったと思います。自分がこれまで取ってきた行動を今日初めて、冷静に見つめ直すことができました」
「そうか、そんな風に思ってくれたのなら、良かった。姐さん、何度も言うが、姐さんには姐さんの考え方がある。たとえ世間に受け容れて貰えなかったとしても、そんなことは気にすることはねえ。私は姐さんがけして間違ってはいねえし、悪くもねえんだと、そのことだけは、はっきりと言ってやれる。だから、自分の信じた道を自分の力で進めば良いさ」
「ありがとうございます。私、今日の夢五郎さんの言葉を忘れません。自分のしたことで誰かを傷つけたかもしれないことを忘れずに、それでも自分を信じて生きてゆきます」
 泉水は溢れる涙をぬぐうこともできなくて、ただ涙が流れ落ちるに任せた。うつむいたままで、礼を述べる。
「うん、それでこそ私の惚れた姐さんだ。良いことを言う。やっぱり、とびきりの良い女だねえ、また惚れ直したよ」
 と、最後はこの男らしい軽口で締めくくった。

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