
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
誰かを傷つけたかもしれない―、むろん、この場合の〝誰か〟とは良人泰雅である。泉水は、自分が泰雅の妻という立場にありながら、泰雅の意を受け容れることができなかった不幸を思った。それは確かに泉水には何の罪もない、不幸なめぐり合わせにはすぎなかった。しかし、同時にその不幸は泰雅にとっての不幸でもあり、彼を苦しめたのは確かなのだ。かといって、泰雅が泉水にした数々の行いが正当化されるものではないが、泰雅はまた泰雅なりに苦しみ、葛藤の日々を送っていたのだと、今なら良人の心まで思いやることができた。
夢五郎との再会は、思いがけず泉水のそのことを気付かせてくれた。
「身体に気をつけるんだぜ、山の冬は結構寒いからな、もう直、ここいらにも雪が降る。ここら辺は真冬よりかえって春先に雪が多いんだ」
夢五郎はそう言って、泉水の肩を軽く叩くと、廊下を静かに歩き去っていった。
それにしても、夢五郎は何者なのだろう。
自分のことはともかくとして、泉水の胸には新たな疑問が生まれた。元々、夢売りの夢五郎という人を食った名前が真の名であるはずがないとは思っていた。それが、こんな山頂の尼寺で再び相まみえるとは!
夢五郎自身は御仏のお導きだなぞとは言わないと断じていたけれど、泉水はやはり、あの不思議な夢売りとの再会が御仏のお導きだとしか思えない。現に、あの男のひと言で、泉水は改めてこの寺で新しい人生を始めてみようと決意した。泰雅には泰雅の苦悩があったのだと理解した今では、尚更、仏道に入ることは必然的なもののようにも思える。
出家し御仏に仕えることで、泰雅の苦しみもまた我が身の苦しや罪業も浄めることができるのであれば、どんなに良いだろう。
伊左久は、今日の客人は光照の身内だと言っていた。であれば、夢五郎は庵主光照の身内ということになる。
考えに沈みながら、ふと視線を動かす。
鈍色の空から風に乗って舞う花びらに気付き、泉水は眼を見開いて空を仰ぐ。今日は朝か陰鬱な冬の空がひろがっていたけれど、とうとう降ってきたようだ。
今年になって初めての雪だ。
風花がくるくる、くるくると風に舞い流れ去るように踊っている。戯れ合うかのように舞い踊る雪の花は、人にも似ている。
夢五郎との再会は、思いがけず泉水のそのことを気付かせてくれた。
「身体に気をつけるんだぜ、山の冬は結構寒いからな、もう直、ここいらにも雪が降る。ここら辺は真冬よりかえって春先に雪が多いんだ」
夢五郎はそう言って、泉水の肩を軽く叩くと、廊下を静かに歩き去っていった。
それにしても、夢五郎は何者なのだろう。
自分のことはともかくとして、泉水の胸には新たな疑問が生まれた。元々、夢売りの夢五郎という人を食った名前が真の名であるはずがないとは思っていた。それが、こんな山頂の尼寺で再び相まみえるとは!
夢五郎自身は御仏のお導きだなぞとは言わないと断じていたけれど、泉水はやはり、あの不思議な夢売りとの再会が御仏のお導きだとしか思えない。現に、あの男のひと言で、泉水は改めてこの寺で新しい人生を始めてみようと決意した。泰雅には泰雅の苦悩があったのだと理解した今では、尚更、仏道に入ることは必然的なもののようにも思える。
出家し御仏に仕えることで、泰雅の苦しみもまた我が身の苦しや罪業も浄めることができるのであれば、どんなに良いだろう。
伊左久は、今日の客人は光照の身内だと言っていた。であれば、夢五郎は庵主光照の身内ということになる。
考えに沈みながら、ふと視線を動かす。
鈍色の空から風に乗って舞う花びらに気付き、泉水は眼を見開いて空を仰ぐ。今日は朝か陰鬱な冬の空がひろがっていたけれど、とうとう降ってきたようだ。
今年になって初めての雪だ。
風花がくるくる、くるくると風に舞い流れ去るように踊っている。戯れ合うかのように舞い踊る雪の花は、人にも似ている。
