
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
夢五郎との思わぬ再会があった数日後の朝。
泉水は光照と共に本堂で朝の読経を捧げていた。光照の澄んだ朗々とした声が狭い堂内に響き渡る。泉水もまた憶えたての拙い経を懸命に読んだ。二人の経が唱和し、美しい独特の調べとなってゆく。
その合間に、光照が打つ鐘の音が朝のしじまに響き、消えていった。まるで経そのものが一つの音楽のようでもある。
泉水は、光照の後ろに控えていた。端座して一心に経を読んでいた泉水に異変が起こった。突如として烈しい吐き気を憶えたのである。猛烈な吐き気が奥底から喉元までせり上がってくる。泉水は胸を押さえて、その場にうずくまった。
「どうしたのですか?」
読経が途切れる。光照が慌てて泉水の傍ににじり寄った。
「申し訳もございませぬ。大切な朝のお勤めの最中に」
泉水は心底から申し訳なく思った。だが、吐き気は一向に去らず、むしろ烈しくなるばかりで泉水を苦しめた。
「もしや、ずっと具合が悪かったのではありませんか」
そういえば、ここ十日ほどの間、胃の調子が悪かったことを、ぼんやりと思い出す。薄い粥に、具のものも殆どない味噌汁といったささやかな三度の食事もろくに喉を通らず、光照が心配そうに見つめていたことにも気付いてはいた。
夢五郎と久方ぶりに逢った日も、気分はあまり良いとはいえない状態であった。気分が悪くて、吐き気がずっと続いている。その吐き気は時々、信じられないほどひどくなり、実際に吐いたこともあったほどだ。だが、殆ど満足に食べてないため、出てくるのは胃液ばかりという有り様だ。
「このようなことを言いたくはないのですが、心を鬼にして言います。おせんどの、あなたは懐妊しているのではないですか?」
「え」
泉水は黒い眼を見開き、光照を見つめた。
光照は、そのいささか無邪気ともいえる表情を痛ましげに見つめ返す。
「そんな、そんなはずは」
そんなはずはあり得ないのだと、言おうとして、ハッとした。まさか、そんなまさか。
泉水は光照と共に本堂で朝の読経を捧げていた。光照の澄んだ朗々とした声が狭い堂内に響き渡る。泉水もまた憶えたての拙い経を懸命に読んだ。二人の経が唱和し、美しい独特の調べとなってゆく。
その合間に、光照が打つ鐘の音が朝のしじまに響き、消えていった。まるで経そのものが一つの音楽のようでもある。
泉水は、光照の後ろに控えていた。端座して一心に経を読んでいた泉水に異変が起こった。突如として烈しい吐き気を憶えたのである。猛烈な吐き気が奥底から喉元までせり上がってくる。泉水は胸を押さえて、その場にうずくまった。
「どうしたのですか?」
読経が途切れる。光照が慌てて泉水の傍ににじり寄った。
「申し訳もございませぬ。大切な朝のお勤めの最中に」
泉水は心底から申し訳なく思った。だが、吐き気は一向に去らず、むしろ烈しくなるばかりで泉水を苦しめた。
「もしや、ずっと具合が悪かったのではありませんか」
そういえば、ここ十日ほどの間、胃の調子が悪かったことを、ぼんやりと思い出す。薄い粥に、具のものも殆どない味噌汁といったささやかな三度の食事もろくに喉を通らず、光照が心配そうに見つめていたことにも気付いてはいた。
夢五郎と久方ぶりに逢った日も、気分はあまり良いとはいえない状態であった。気分が悪くて、吐き気がずっと続いている。その吐き気は時々、信じられないほどひどくなり、実際に吐いたこともあったほどだ。だが、殆ど満足に食べてないため、出てくるのは胃液ばかりという有り様だ。
「このようなことを言いたくはないのですが、心を鬼にして言います。おせんどの、あなたは懐妊しているのではないですか?」
「え」
泉水は黒い眼を見開き、光照を見つめた。
光照は、そのいささか無邪気ともいえる表情を痛ましげに見つめ返す。
「そんな、そんなはずは」
そんなはずはあり得ないのだと、言おうとして、ハッとした。まさか、そんなまさか。
