
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
眼の前が闇一色に塗り込められたような気がした。たった一度だけだった。しかも、縛られ、口には布をくわえさせられ、身体の自由を奪われた状態で手込めにされたのだ。
そんな陵辱を受けた末に、自分は身ごもったというのか。涙が溢れそうになる。つんと鼻の奥がして、泉水は溢れそうになる涙をこらえた。
「私、私」
泉水は何か言おうとして、言葉を失った。
余りの衝撃に言葉さえ出ない。
かつて良人泰雅を心から愛し慕っていた頃、まだ二人が幸せな夫婦だった頃、泉水は誰よりも赤子を望んでいた。泰雅の血を引く子を生みたいと心から願っていたのである。
そのときには、幾ら願っても、夜毎褥を共にしても、子どもは授からなかった。幾ら抱かれても子宝を授からない―、そのことが泉水が次第に良人と床を共にすることを厭うようになっていった一因だともいえる。子も授からぬままに、夜毎繰り返される営みを空しいものだと、疎ましいものだと思い始めたのだ。
心から愛し合い、求め合っていたときには、幾ら望んでも授からなかったのに、ひと月ぶりにたった一度、あんな形で犯されだけで身ごもった。何という皮肉だろう。
江戸から離れた村で新しい日々を歩み始めた時、泰雅に見つかり、たった一夜、慰みものにされただけなのに。あの哀しい出来事のせいで、泉水はまたしても村にいられなくなった。折角手にした新しい生活を手放し、何もかも捨てて村を出ざるを得なくなった。
今度こそ、この寺で自分らしい生き方を見つけ、もう迷うことなく前に向いて進もうと思ったのに。光照という素晴らしい尼君と出逢い、光照のような尼僧になって仏の道に生きたいと、人々の役に立ちたいと願ったのに。
新しい人生の目的を見い出し、やっと歩き始めた矢先の懐妊の発覚だった。
運命はあまりにも残酷すぎる。光照は常に言っている。人が人生で与えられる試練は、すべて御仏がその人に必要だからこそ与え給うものなのだと。
もし、光照の教えが真であるというならば、教えて欲しい。御仏は一体、自分にいかほどの試練を下されるのか。
夢五郎と再会した日、確かに運命に流されて行き着く先がいずこか、この眼でしかと見届けてやろうと思った。
そんな陵辱を受けた末に、自分は身ごもったというのか。涙が溢れそうになる。つんと鼻の奥がして、泉水は溢れそうになる涙をこらえた。
「私、私」
泉水は何か言おうとして、言葉を失った。
余りの衝撃に言葉さえ出ない。
かつて良人泰雅を心から愛し慕っていた頃、まだ二人が幸せな夫婦だった頃、泉水は誰よりも赤子を望んでいた。泰雅の血を引く子を生みたいと心から願っていたのである。
そのときには、幾ら願っても、夜毎褥を共にしても、子どもは授からなかった。幾ら抱かれても子宝を授からない―、そのことが泉水が次第に良人と床を共にすることを厭うようになっていった一因だともいえる。子も授からぬままに、夜毎繰り返される営みを空しいものだと、疎ましいものだと思い始めたのだ。
心から愛し合い、求め合っていたときには、幾ら望んでも授からなかったのに、ひと月ぶりにたった一度、あんな形で犯されだけで身ごもった。何という皮肉だろう。
江戸から離れた村で新しい日々を歩み始めた時、泰雅に見つかり、たった一夜、慰みものにされただけなのに。あの哀しい出来事のせいで、泉水はまたしても村にいられなくなった。折角手にした新しい生活を手放し、何もかも捨てて村を出ざるを得なくなった。
今度こそ、この寺で自分らしい生き方を見つけ、もう迷うことなく前に向いて進もうと思ったのに。光照という素晴らしい尼君と出逢い、光照のような尼僧になって仏の道に生きたいと、人々の役に立ちたいと願ったのに。
新しい人生の目的を見い出し、やっと歩き始めた矢先の懐妊の発覚だった。
運命はあまりにも残酷すぎる。光照は常に言っている。人が人生で与えられる試練は、すべて御仏がその人に必要だからこそ与え給うものなのだと。
もし、光照の教えが真であるというならば、教えて欲しい。御仏は一体、自分にいかほどの試練を下されるのか。
夢五郎と再会した日、確かに運命に流されて行き着く先がいずこか、この眼でしかと見届けてやろうと思った。
