
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
「放して!」
泉水がもがきながら叫ぶと、夢五郎も負けないくらい大きな声で怒鳴り返した。
「いいや、放さねえ。姐さんがもう二度とこんな馬鹿げた真似はしでかさねえと約束するまでは、私はこの手を放さないよ」
それでもなお、泉水は渾身の力で夢五郎の手をふりほどこうとする。夢五郎は顔をしかめ、泉水のもう一方の手も掴んだ。
「放して、放してってば」
猛然と抵抗する泉水を夢五郎も持て余しているようだ。
「あなたに何が判るっていうの? 死ねば、楽になれるのに。もう何も私を苦しめるものはない場所に行きたい、良い加減に楽になりたいの」
「馬鹿野郎ッ」
その刹那、夢五郎の平手が飛ぶ。乾いた音が鳴り響き、泉水は右頬を押さえて、茫然と夢五郎を見た。
短い沈黙があった。
夢五郎が微笑する。
「生まれてこの方、女を殴ったのは初めてだぜ」
泉水の眼に涙が湧いた。
「この子は生きていても、しようがないのです。生まれてきたって、幸せにはなれない。父親であるはずの男を母親の私が憎んでいると知って、それでもなお、この世に生まれたいと思うでしょうか」
「子どもには子どもの人生があるんだ、勝手に決めるな。もし、この子が死ぬときは、それは、この子自身が自分の人生をとことん生き抜いて、自分でそう決めたときだ。これから、この世に生まれ落ちてきて、まだどんな良いことや悪いことが起こるかも判らねえ中から、勝手に希望の芽を摘み取ることなんざァ、誰にも、たとえ母親のそなただとてできねえ、してはならぬことだぞ」
「―」
黙り込んだ泉水の手を夢五郎が放す。
「良いか、姐さん。子どもの人生は他の誰のものでもねえ、その子だけのもので、姐さんにだって自由にはならねえんだよ。判るか?
もし、姐さんが母親だからという、ただそれだけの理由で腹の子の人生を好きにしても良いと思ってるのなら、それは大きな間違いだ」
「子どもの人生は、その子だけのもの」
泉水は夢五郎の言葉をなぞる。
泉水がもがきながら叫ぶと、夢五郎も負けないくらい大きな声で怒鳴り返した。
「いいや、放さねえ。姐さんがもう二度とこんな馬鹿げた真似はしでかさねえと約束するまでは、私はこの手を放さないよ」
それでもなお、泉水は渾身の力で夢五郎の手をふりほどこうとする。夢五郎は顔をしかめ、泉水のもう一方の手も掴んだ。
「放して、放してってば」
猛然と抵抗する泉水を夢五郎も持て余しているようだ。
「あなたに何が判るっていうの? 死ねば、楽になれるのに。もう何も私を苦しめるものはない場所に行きたい、良い加減に楽になりたいの」
「馬鹿野郎ッ」
その刹那、夢五郎の平手が飛ぶ。乾いた音が鳴り響き、泉水は右頬を押さえて、茫然と夢五郎を見た。
短い沈黙があった。
夢五郎が微笑する。
「生まれてこの方、女を殴ったのは初めてだぜ」
泉水の眼に涙が湧いた。
「この子は生きていても、しようがないのです。生まれてきたって、幸せにはなれない。父親であるはずの男を母親の私が憎んでいると知って、それでもなお、この世に生まれたいと思うでしょうか」
「子どもには子どもの人生があるんだ、勝手に決めるな。もし、この子が死ぬときは、それは、この子自身が自分の人生をとことん生き抜いて、自分でそう決めたときだ。これから、この世に生まれ落ちてきて、まだどんな良いことや悪いことが起こるかも判らねえ中から、勝手に希望の芽を摘み取ることなんざァ、誰にも、たとえ母親のそなただとてできねえ、してはならぬことだぞ」
「―」
黙り込んだ泉水の手を夢五郎が放す。
「良いか、姐さん。子どもの人生は他の誰のものでもねえ、その子だけのもので、姐さんにだって自由にはならねえんだよ。判るか?
もし、姐さんが母親だからという、ただそれだけの理由で腹の子の人生を好きにしても良いと思ってるのなら、それは大きな間違いだ」
「子どもの人生は、その子だけのもの」
泉水は夢五郎の言葉をなぞる。
