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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第24章 再会

 生きていてこその、幸福。生命あっての物種。生命尽きた後の世界のことなんて、本当はどんな人だって現実に見たわけではないのだ。死んだら、おしまいなのだ。
 この時、泉水の進む道も決まった。極楽に行って幸せになろうと説くよりも、この世で現世で共に幸せになるために努力しよう―、そう人々に言える尼僧になりたいと誓ったのである。その辺は師とは考え方が違うかもしれない。しかし、光照が人々を思い、常に我が身より衆生のための幸せを考えているのは知っている。その姿勢こそ、泉水が打たれ、この人についてゆこうと決めた最大の理由なのだから。
「夢五郎さん、私、生みます。この子をちゃんと生んで、一人で立派に育ててみせます。夢五郎さんの話を聞いていたら、何だか生みたくなっちゃいました。色々と大変なことはあるかもしれないけれど、この子がどんな子なのか逢うのも愉しみだし、夢五郎さんのような素敵な男(ひと)になるかもしれないのなら、尚更生んで、ちゃんと育てなきゃ駄目だと思います」
 泉水が心から言うと、夢五郎が破顔した。
「嬉しいことを言ってくれるねえ、姐さん。男をあまり歓ばせるものじゃないよ。折角諦めた恋心がまた燃え上がっちまったら、どうするんだ」
 と、揶揄するように言う。
「それは―」
 泉水はしばしうつむいて考え込み、顔を上げた。
「それは、困りますね」
 泉水は大真面目な表情で返す。その顔を見、
夢五郎は声を上げて笑った。
「全っく、律儀な女だな。そんなことに、一々真面目に応えなくても良いって。それに、そんな大真面目に困るだなんぞ言われたら、私の男としての面子は丸潰れだぞ」
「―ごめんなさい」
 と、これもまた生真面目に謝る泉水に、夢五郎は笑いをこらえられない様子だ。
「もう、大丈夫だな。これからも何かあれば、遠慮しないで言ってくれ。私でできることなら、何でも力になるから。なっ」
 と、肩を叩かれ、泉水は微笑んで頷いた。
 不思議なことに、この男と話していると、暗く沈んでいた心がいつしか自分でも知らぬ中に明るくなっている。

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