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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第3章 《囚われた蝶》

「私は祐次郎さまを今でも大切な方だと思うております。さりながら、祐次郎さまに対すこの気持ちは、殿に対するものとは全く違いまする。殿とお逢いして、私は恋というものがいかなるものか知りましたゆえ」
 最後の科白を口にするのは、かなり勇気が要った。泉水の白い頬がうっすらと染まる。
「泉水―」
 泰雅の整った顔に愕きがひろがった。
「俺もだ、泉水。ただ女を抱くのと、惚れた女と生涯を共にしたいと思うのは全く別だということに、俺も遅まきながら初めて気づいたように思う。大勢の女と浮き名を流して、女も恋も知ったつもりになっていたが、その実、俺は何も知っちゃアいなかった。こんな男だが、改めて付いてきてくれるか」
 直裁な告白に、泉水はそっと頷いた。
 泰雅の手が差し伸べられる。
 泉水は大きな手のひらに自分の小さな白い手を重ねた。
 二人の前をつがいの蝶が戯れ合うようにして飛んでゆく。二羽の蝶はやがて空高く舞い上がり、空の蒼に吸い込まれるようにして見えなくなった。
 泉水は泰雅に手を取られたまま、いつまでも蝶の消えた方を見つめていた。

☆ 明日から第2話に入ります。引き続き、泉水と泰雅の恋物語をよろしくお願いします ☆

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