テキストサイズ

胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第28章 出家

 姫さま。
 このような形で先に旅立つこと不忠をお許し下さいませ。
 数ならぬ身ではございましたが、この時橋は畏れ多くも姫さまの母代わりとして今日までご奉公させて頂きましたこと、何よりの幸福と存じております。さりながら、たった一つ残念であったのは、私の力が至らなかったがゆえに、姫さまを最後までお守りできなかったことにございます。榊原の殿にめぐり逢われ、女人としてのお幸せを得られたものと思うたのも束の間、姫さまの辿られた道はあまりに厳しうございました。私は乳母として姫さまのお側に付き従っておりながら、結局は何もして差し上げられず、姫さまがみすみす世捨て人とならるるのを黙って見ていることしかできませなんだ。
 あの世に行ったからとて、姫さまのお母君玉葉院さまには合わせる顔もなく、お詫びのしようもございませぬ。姫さまをいかにしてもお幸せにはして差し上げられなかった私の、これが精一杯のお詫びの心にございます。御仏にお仕えするおん身とおなりになった姫さまに、最早私ができることはなく、ただただ姫さまのこれよりのお幸せをお祈りするばかりにございます。どうか、姫さま、お身体をおいといあそばされ、ご自身のお選びになられた道をまっとうなされませ。時橋は、そのことのみを念じておりまする。
 どうか、どうか、最後までお仕えするこのと叶わなかったこの身をお許し賜りますよう―。
         弥子まゐる

ストーリーメニュー

TOPTOPへ