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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第29章 岐路(みち)

 泉水の心は今、愕くほど澄み渡っていた。
 このように落ち着いた心持ちになれたのは、実に久しぶりのような気がする。
 泉水の迷いのない晴れやかな表情を見、光照は感に堪えたように言った。
「確かに、蓮照の申すように、そなたは強くなったのやもしれませんね。私は何か間違うていたように思います。逆境は人を不幸に陥れるものではなく、人を強くするもの、もしくは人を作るものだと、初めて知り得ました」
 その言葉が、泉水にとって師からの何よりの餞となった。我が身がここで過ごした五年間は確かに無駄ではなかった―、心の底からそう思えた。

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