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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第4章 《新たな始まり》

 そこまで考えた時、泉水の中でまた先刻の不安が心をどす黒く染める。
―女が死にたいほど思い詰めるときって、どんなときだろう?
 いつになく深刻な表情で訊いてきた良人は、一体何を考えているのか。
 誰か泰雅にそんな顔させる女性がどこかにいるというのだろうか。
 それとも、こんな想いは自分一人の妄想であって、所詮根も葉もない他愛ないものなのか。思い惑う泉水の胸中など知らぬげに、ほどなく泰雅は泉水を腕に抱いたまま、規則正しい寝息を立て始めた。
 泉水は小さな吐息をつくと、自分もまた眼をつぶり、良人の身体の心地よい温もりに包まれて眠りに落ちていった。

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