
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第31章 反旗
ああ言って、帯まで解いて見せて、果たして泰雅がどう出るかは判らなかった。もし誘いのままに泰雅がその気になっていれば、泉水なぞひとたまりもなかったろう。
あの時、泉水は、あのような態度に―一歩踏み込めば、かえって泰雅が退くという予測がついたからこその言動であった。もし、読みが外れていれば、泉水はまたしても泰雅の性の餌食になっていたところであった。
無謀でもあり、危険な賭けではあった。
が、どうやら、泉水の読みは外れてはいなかったらしい。泰雅は泉水の態度にかえって気圧され、すごすごと敗退していった。
泉水は賭けに勝ったのである。
しかし、泉水の胸には歓びは微塵もない。安堵がどっと押し寄せるのは当然としても、かつては愛していた男をこれほどまでの策を弄してまで拒まねばならぬ我が身の運命(さだめ)がただ、ただ哀しかった。
誰もいなくなった寝所は千尋の海の底のように静まり返っている。泉水はたった一人、身じろぎもせずにその場に座っていた。
深い、底なしの闇が泉水を取り巻いている。
泉水はその中で、孤独だった。
あの時、泉水は、あのような態度に―一歩踏み込めば、かえって泰雅が退くという予測がついたからこその言動であった。もし、読みが外れていれば、泉水はまたしても泰雅の性の餌食になっていたところであった。
無謀でもあり、危険な賭けではあった。
が、どうやら、泉水の読みは外れてはいなかったらしい。泰雅は泉水の態度にかえって気圧され、すごすごと敗退していった。
泉水は賭けに勝ったのである。
しかし、泉水の胸には歓びは微塵もない。安堵がどっと押し寄せるのは当然としても、かつては愛していた男をこれほどまでの策を弄してまで拒まねばならぬ我が身の運命(さだめ)がただ、ただ哀しかった。
誰もいなくなった寝所は千尋の海の底のように静まり返っている。泉水はたった一人、身じろぎもせずにその場に座っていた。
深い、底なしの闇が泉水を取り巻いている。
泉水はその中で、孤独だった。
