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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第32章 変化(へんげ)

 そして、泉水の心は二度と元どおりにはならない。
 それは、たとえ心を鬼にしてでも告げねばならぬことであった。良い加減なことを言って逃れることはできないし、また、ここまで真剣に泰雅の身について憂える脇坂に対して曖昧な態度を取ることは許されない。
 脇坂は彫像のように身じろぎもせず、じいっと端座している。その顔には濃い絶望と疲労が滲んでいた。
「済まぬ」
 泉水は、もう一度、消え入るような声で言った。
 庭の片隅から蛙の啼く声が聞こえてきた。
 梅雨には、まだ間があるのにと泉水は意識の片隅でぼんやりと考える。
 何故か、その蛙の声が無性に物哀しく聞こえるように思えるのは、気のせいであったろうか。

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