
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第33章 儚い恋
それにしても、あの白い花と蒼い蝶が見えるときに限って、泉水は死への誘惑に駆り立てられるらしい。榊原の屋敷であの光景を見たときは、無念の死を遂げた娘の見せた幻かと思ったものの、どうやら、それは無関係だったようだ。
恐らくは、泉水自身の心の弱さ―隙があのような白昼夢を見せるに相違ない。だが、我が身の心の奥底深くに、ひそかな死への渇望が憧れにも似た形で存在することに、泉水は、たまらない恐怖を憶えずにはおられなかった。
このままでは、自分は本当に狂ってしまう。
「本当にありがとうございました。どなたさまかは存じませんが、危ないところを助けて頂きました。どのようにお礼を申し上げたら良いか判りません」
泉水が顔を上げた時、上背のある男の顔が漸く眼に飛び込む。
「あ―」
泉水の顔に驚愕がひろがった。
相手の男もまた泉水以上に愕いたようだ。
「お前は、槙野の姫さまじゃねえか。いや、しかし、愕いたぜ。何でお前さんがこんな場所にいるんだよ」
何と、泉水を助けたのは、秋月(あきづき)兵(ひよう)庫之助(ごのすけ)であった。実に六年ぶりの再会になる。
恐らくは、泉水自身の心の弱さ―隙があのような白昼夢を見せるに相違ない。だが、我が身の心の奥底深くに、ひそかな死への渇望が憧れにも似た形で存在することに、泉水は、たまらない恐怖を憶えずにはおられなかった。
このままでは、自分は本当に狂ってしまう。
「本当にありがとうございました。どなたさまかは存じませんが、危ないところを助けて頂きました。どのようにお礼を申し上げたら良いか判りません」
泉水が顔を上げた時、上背のある男の顔が漸く眼に飛び込む。
「あ―」
泉水の顔に驚愕がひろがった。
相手の男もまた泉水以上に愕いたようだ。
「お前は、槙野の姫さまじゃねえか。いや、しかし、愕いたぜ。何でお前さんがこんな場所にいるんだよ」
何と、泉水を助けたのは、秋月(あきづき)兵(ひよう)庫之助(ごのすけ)であった。実に六年ぶりの再会になる。
