
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第34章 涙
つい三日前も、泉水の作っただし巻き卵を美味そうに頬ばっていた兵庫之助の笑顔がありありと蘇る。
今夜はその兵庫之助も賞めただし巻き卵を作ったのに―、肝心の兵庫之助が帰ってこない。
三和土に降り、下駄を突っかけたそのときのことだった。急に表がざわざわとして、泉水はハッと顔を上げた。
興奮したような人声と複数の脚音。これはただ事ではない。咄嗟に中から表の腰高障子を開けると、眼前に見知らぬ男の貌が飛び込んできた。
「お前さんがここの旦那の―秋月さまの奥方ですかい?」
明らかに岡っ引きと思える風体の五十年輩の男が立っていた。
今夜はその兵庫之助も賞めただし巻き卵を作ったのに―、肝心の兵庫之助が帰ってこない。
三和土に降り、下駄を突っかけたそのときのことだった。急に表がざわざわとして、泉水はハッと顔を上げた。
興奮したような人声と複数の脚音。これはただ事ではない。咄嗟に中から表の腰高障子を開けると、眼前に見知らぬ男の貌が飛び込んできた。
「お前さんがここの旦那の―秋月さまの奥方ですかい?」
明らかに岡っ引きと思える風体の五十年輩の男が立っていた。
