
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第5章 《謎の女》
年の頃は泉水よりはわずかに年上、二人ともに二十歳前後ではないか。雑用に従事する碑女ならばともかく、当主やその妻の側近く仕える奥女中は厳しい詮議を受ける。身許氏素性の確かであり、一定以上の武家の娘か、あるいは大店の娘が嫁入り前の行儀見習いとして武家を仮親として奉公に上がる場合も少なくない。眉目も心映えもそれなりにある、家柄の良い娘が奥向きに仕えるお女中になれ、その中から殿のお手つきとなり、側室となる者も出る。めでたく殿の御子を身ごもり、若君を生めば“お腹さま”となりその権力は絶大、形式だけの正室などよりはよほど栄耀栄華を極めることができるのだ。
当主の寵愛を勝ち得た女が最高の地位に上り詰めるというのは、何も江戸城の公方さまの後宮、つまり大奥だけではない。諸藩、どこの武家屋敷においても同じことなのだ。
流石により抜かれた腰元たちだけあり、どちらも泉水よりは美しく、臈長けて見えた。泰雅はいつもこんな美女たちに囲まれて生活しているのだ―、今更ながらに、自分が取るに足らない存在のように思えてきて、泉水は泣きたくなる。
と、二人の話がふいに耳に飛び込んできて、泉水は身をいっそう固くした。
「まさか、そのようなことはございますまい」
一人が少し大仰にも聞こえる愕きぶりを示すと、いま一人が声を低めた。
「もう少しお声を小さくなさって下さいまし。ここは奥方さまのお部屋にも近うございますれば」
二人の歩みが止まる。最初の少し小柄な方が傍らの腰元に身を寄せた。
「されば、今仰せになったことは真にございますか」
すり寄られた腰元は少し迷惑げな顔をしたが、話の続きの方がしたくてならないらしい。
訳知り顔で頷いた。
「さようにございます。町中に殿が例の女子を住まわせていらっしゃると表では専らの噂だそうにございますよ。しかも、その女の居場所というのが」
と、ここで女は一段と小声になったので、泉水には皆まで聞き取れなかった。
「まっ、そのようなことがあってよろしいのでしょうか。と申すことは、殿のお母君さまもその女の存在をお認めになっていらっしゃるとー?」
当主の寵愛を勝ち得た女が最高の地位に上り詰めるというのは、何も江戸城の公方さまの後宮、つまり大奥だけではない。諸藩、どこの武家屋敷においても同じことなのだ。
流石により抜かれた腰元たちだけあり、どちらも泉水よりは美しく、臈長けて見えた。泰雅はいつもこんな美女たちに囲まれて生活しているのだ―、今更ながらに、自分が取るに足らない存在のように思えてきて、泉水は泣きたくなる。
と、二人の話がふいに耳に飛び込んできて、泉水は身をいっそう固くした。
「まさか、そのようなことはございますまい」
一人が少し大仰にも聞こえる愕きぶりを示すと、いま一人が声を低めた。
「もう少しお声を小さくなさって下さいまし。ここは奥方さまのお部屋にも近うございますれば」
二人の歩みが止まる。最初の少し小柄な方が傍らの腰元に身を寄せた。
「されば、今仰せになったことは真にございますか」
すり寄られた腰元は少し迷惑げな顔をしたが、話の続きの方がしたくてならないらしい。
訳知り顔で頷いた。
「さようにございます。町中に殿が例の女子を住まわせていらっしゃると表では専らの噂だそうにございますよ。しかも、その女の居場所というのが」
と、ここで女は一段と小声になったので、泉水には皆まで聞き取れなかった。
「まっ、そのようなことがあってよろしいのでしょうか。と申すことは、殿のお母君さまもその女の存在をお認めになっていらっしゃるとー?」
