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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第35章 哀しみの果て

 もし、そうなのだとすれば、兵庫之助とこの守袋が泉水の危ういところを助けてくれたとしか言いようがない。あの蝶は心が揺らいでいるときや不安や葛藤を抱えているときほど、よく見えるようだ。己れの心の迷いが見せている幻だと思えなくもない。
 泉水は守袋を握りしめた。
―兵庫之助さま、どうか私の弱き心を支えて下さいませ。
 明日は雨なのか、細い月は相変わらず薄い膜を被ったように見える。
 虫の声がひときわ高くなったような気がして、泉水はそっと眼を閉じた。涼しい秋の夜風が池の方から吹いてきて、その心地良さに身の穢れも浄められていくかのように思われる。

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