
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第36章 臥待月(ふしまちづきの)夜
「愛いことを申す奴だ。可愛いことを申すその唇を塞いでしまおう」
そう言うと、貪るように唇を吸われる。
「殿、夜が更けたとはいえ、ここは月が明るうて、何やら、恥ずかしうございます」
長い口づけの後、泉水はいかにも恥ずかしげに身をよじった。
泰雅がつと空を振り仰ぐ。
藍色の天に、眼(まなこ)にも似た月が掛かっている。
「いかにも、ここでは明るすぎるか。恥ずかしがり屋の泉水らしいの」
泰雅は早くも眦を下げ、卑猥な笑みを浮かべている。泰雅が部屋の障子を閉める。
泉水は泰雅に軽々と抱え上げられた。泰雅はそのまま大股で部屋を横切り、次の間に続く襖を無造作に開ける。開け放った襖の向こうに、艶めかしい夜具が整然と並んでいた。
枕許には乱れ箱と犬張り子が置かれている。乱れ箱は女性が褥に横たわった際、美しい髪がひろがるのを受け止めるため、犬張り子は子孫繁栄の象徴、つまり懐妊・多産を願うおまじないの置物だ。
泉水はその犬張り子を見ると、ふっと顔を背けた。が、これから女と耽る淫事で頭がいっぱいの泰雅は泉水のそんな微妙な仕草にも気付かない。
「襖を―閉めて下りませぬか。このままでは、あまりに明るうて」
泉水が甘えた声を出す。泰雅は笑いながら襖を閉めた。途端に部屋が薄い闇で満たされる。枕許の行灯の火影が広い寝所の内をほの暗く照らし出していた。
「泉水、待ちかねたぞ」
泰雅が待つこと久しからずと、手を伸ばしてきた。逞しい手が泉水の帯をするすると解く。その隙に、泉水が懐から何かを取り出して褥の下に押し込んだのにも一向に気付いていない。
「泉水―」
泰雅が降るような口づけを落としながら、泉水の夜着を剥いでゆく。初めは唇や頬に触れていた唇が次第に下に降り、首筋から乳房、下腹へと辿ってゆく。
泉水の乳房は昔と変わらず、豊かで美しかった。到底、子どもを生み、しかもその子を乳母もつけず母乳で育てたとは思えないほど完璧な形を保っている。
そう言うと、貪るように唇を吸われる。
「殿、夜が更けたとはいえ、ここは月が明るうて、何やら、恥ずかしうございます」
長い口づけの後、泉水はいかにも恥ずかしげに身をよじった。
泰雅がつと空を振り仰ぐ。
藍色の天に、眼(まなこ)にも似た月が掛かっている。
「いかにも、ここでは明るすぎるか。恥ずかしがり屋の泉水らしいの」
泰雅は早くも眦を下げ、卑猥な笑みを浮かべている。泰雅が部屋の障子を閉める。
泉水は泰雅に軽々と抱え上げられた。泰雅はそのまま大股で部屋を横切り、次の間に続く襖を無造作に開ける。開け放った襖の向こうに、艶めかしい夜具が整然と並んでいた。
枕許には乱れ箱と犬張り子が置かれている。乱れ箱は女性が褥に横たわった際、美しい髪がひろがるのを受け止めるため、犬張り子は子孫繁栄の象徴、つまり懐妊・多産を願うおまじないの置物だ。
泉水はその犬張り子を見ると、ふっと顔を背けた。が、これから女と耽る淫事で頭がいっぱいの泰雅は泉水のそんな微妙な仕草にも気付かない。
「襖を―閉めて下りませぬか。このままでは、あまりに明るうて」
泉水が甘えた声を出す。泰雅は笑いながら襖を閉めた。途端に部屋が薄い闇で満たされる。枕許の行灯の火影が広い寝所の内をほの暗く照らし出していた。
「泉水、待ちかねたぞ」
泰雅が待つこと久しからずと、手を伸ばしてきた。逞しい手が泉水の帯をするすると解く。その隙に、泉水が懐から何かを取り出して褥の下に押し込んだのにも一向に気付いていない。
「泉水―」
泰雅が降るような口づけを落としながら、泉水の夜着を剥いでゆく。初めは唇や頬に触れていた唇が次第に下に降り、首筋から乳房、下腹へと辿ってゆく。
泉水の乳房は昔と変わらず、豊かで美しかった。到底、子どもを生み、しかもその子を乳母もつけず母乳で育てたとは思えないほど完璧な形を保っている。
