
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第36章 臥待月(ふしまちづきの)夜
泰雅はまずその美しい乳房をしげしげと眺めた。泰雅の執拗な視線が乳房だけでなく、下腹部から両脚へと泉水の身体中を隈なく這い回る。泉水は眼を固く閉じ、その嫌らしげな視線で犯される屈辱に耐えた。
一糸まとわぬ身体を眺め回された後、再び抱き上げられ、腹這いにされた。その背中に、泰雅が覆い被さってくるのが判る。何をされるのかを察し、泉水は蒼ざめた。しかし、今は耐えるしかない。ほどなく襲ってきた痛みはすぐに甘美な痺れに変わった。後ろから深く挿し入れ、突きながら、男の手が豊かな乳房を包み込む。
「―!」
泉水は今宵だけは声を上げまいと、懸命に夜具の端を掴んだ。顔を夜具に押しつけ、声を殺す。
その夜もまた、いつものように烈しく求め合い、愛を交わした。
何度か膚を合わせた後、泰雅は他愛なく眠りに落ちる。泉水は泰雅が熟睡状態になるまで、ずっと傍らで横たわったまま刻を費やした。
一刻余り経った頃、そろりと身を起こす。
あらかじめ褥の下に隠していた懐剣と守り袋を取り出した。裸のままの身体にひんやりとした夜気がまとわりつく。夜着をさっと羽織ると手早く帯を締め、守袋を懐に押し込む。
泉水は覚悟を秘め、つと振り向いた。
泰雅は無防備なほど深い眠りに落ちている。やるなら、今だ、今、この瞬間しかない。
そう、思った。
かつて母とも慕った乳母時橋の形見の懐剣を握りしめる。スと鞘から抜くと、行灯のほのかな灯りを受けて、懐剣が一瞬眩しく眼を射た。
「お生命、頂戴致します」
低い声で囁くと、懐剣を力いっぱい振り上げた。
そのときである。眠っていたかと思われた泰雅がガバと身を起こした。
「そなたも所詮は女だな。この俺がそう易々と殺られると思うてか」
泰雅は泉水の振りかざした懐剣の刃を発止と両手で受け止める。わずか後、泉水は逆に泰雅に懐剣を持った手首をねじ上げられ、身体をその場に押さえつけられていた。
か細い手首を掴んだ泰雅は、ギリギリと力を込めて締め上げてくる。あまりの激痛に、泉水は悲鳴を上げた。震える手から懐剣が落ちる。
一糸まとわぬ身体を眺め回された後、再び抱き上げられ、腹這いにされた。その背中に、泰雅が覆い被さってくるのが判る。何をされるのかを察し、泉水は蒼ざめた。しかし、今は耐えるしかない。ほどなく襲ってきた痛みはすぐに甘美な痺れに変わった。後ろから深く挿し入れ、突きながら、男の手が豊かな乳房を包み込む。
「―!」
泉水は今宵だけは声を上げまいと、懸命に夜具の端を掴んだ。顔を夜具に押しつけ、声を殺す。
その夜もまた、いつものように烈しく求め合い、愛を交わした。
何度か膚を合わせた後、泰雅は他愛なく眠りに落ちる。泉水は泰雅が熟睡状態になるまで、ずっと傍らで横たわったまま刻を費やした。
一刻余り経った頃、そろりと身を起こす。
あらかじめ褥の下に隠していた懐剣と守り袋を取り出した。裸のままの身体にひんやりとした夜気がまとわりつく。夜着をさっと羽織ると手早く帯を締め、守袋を懐に押し込む。
泉水は覚悟を秘め、つと振り向いた。
泰雅は無防備なほど深い眠りに落ちている。やるなら、今だ、今、この瞬間しかない。
そう、思った。
かつて母とも慕った乳母時橋の形見の懐剣を握りしめる。スと鞘から抜くと、行灯のほのかな灯りを受けて、懐剣が一瞬眩しく眼を射た。
「お生命、頂戴致します」
低い声で囁くと、懐剣を力いっぱい振り上げた。
そのときである。眠っていたかと思われた泰雅がガバと身を起こした。
「そなたも所詮は女だな。この俺がそう易々と殺られると思うてか」
泰雅は泉水の振りかざした懐剣の刃を発止と両手で受け止める。わずか後、泉水は逆に泰雅に懐剣を持った手首をねじ上げられ、身体をその場に押さえつけられていた。
か細い手首を掴んだ泰雅は、ギリギリと力を込めて締め上げてくる。あまりの激痛に、泉水は悲鳴を上げた。震える手から懐剣が落ちる。
