胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第37章 花の別れ
「―蝶?」
思わず叫んでしまい、泰雅の眠りを妨げてはと狼狽えて口許を押さえる。振り向いて庭を凝視しても、ただ清かな白い花が秋風に揺れるばかり、蒼い蝶など、どこにも見当たりはしない。
「気のせいであろう」
―私ったら、どうかしている。
泉水は呟くと、小さく首を振った。
しかし、確かに先刻、蒼い蝶が一瞬、庭をよぎったのを見たような気がしたのだ。
あれは、この屋敷の―例の池の近くで度々見かけた蒼い蝶に違いない。
泰雅の病臥する部屋であの蝶を見たことが何故か不吉で禍々しいことのように思え、泉水は何か嫌な感じを憶えた。
泉水はなおも心を残すように立ち尽くしていたが、やがて静かに部屋を出ていった。
思わず叫んでしまい、泰雅の眠りを妨げてはと狼狽えて口許を押さえる。振り向いて庭を凝視しても、ただ清かな白い花が秋風に揺れるばかり、蒼い蝶など、どこにも見当たりはしない。
「気のせいであろう」
―私ったら、どうかしている。
泉水は呟くと、小さく首を振った。
しかし、確かに先刻、蒼い蝶が一瞬、庭をよぎったのを見たような気がしたのだ。
あれは、この屋敷の―例の池の近くで度々見かけた蒼い蝶に違いない。
泰雅の病臥する部屋であの蝶を見たことが何故か不吉で禍々しいことのように思え、泉水は何か嫌な感じを憶えた。
泉水はなおも心を残すように立ち尽くしていたが、やがて静かに部屋を出ていった。