胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第37章 花の別れ
どれくらい眠ったのだろう。また、浅い眠りにたゆたっていたようだ。
泰雅はふと眼を開き、周囲を見回す。
広い、広い野原にたった一人で佇んでいる。
ここが、どこなのかは判らない。行ったこともない場所だった。だが、不思議と心地良い。病に冒された身体がふわりと軽くなり、痛みも感じない。
眼の前を忙しなく羽根を動かしながら、一匹の蝶が通り過ぎてゆく。見たこともない―羽根に複雑な模様のある美しい蝶である。
その羽根は見上げた空のような、鮮やかな蒼。
「ああ、美しいな」
泰雅は蝶を見て、無心な笑顔を浮かべた。
蒼い蝶がいつしか女へと姿を変える。
彼が生涯でただ一人、生命を賭けて愛した最愛の女人。
泉水がふわりと微笑む。大輪の花が開いたような艶やかな微笑だ。
泉水が微笑んで手を振る。〝こちらへ〟というように、片手を差しのべ優しく彼をいざなう。
「泉水、迎えにきてくれたのか、そこは愉しそうだな、俺も一緒に連れていってくれ」
泰雅の眼には、蝶が泉水の顔に見えていた。
蝶がいざなうように羽根を動かす。その様は、愛しい女が手招きするように見える。
生命に代えても惜しくはないと思うほどに愛し抜いた女が花のように微笑みかけている。
「泉水―」
泰雅は女に向かって弱々しく手を差しのべる。
これで、長かった苦しい恋も終わるんだな。これからは、ずっと一緒だ。もう、逃げないでくれ、俺の傍から離れないで、いつもその美しい笑顔を見せてくれ。俺は幸せだ。やっと、お前と一緒に暮らせるんだから。もう何があっても、俺たちを引き離すものはない、なあ、そうだろう、泉水。
差しのべられた泰雅の手が力なく落ちた。
泰雅はふと眼を開き、周囲を見回す。
広い、広い野原にたった一人で佇んでいる。
ここが、どこなのかは判らない。行ったこともない場所だった。だが、不思議と心地良い。病に冒された身体がふわりと軽くなり、痛みも感じない。
眼の前を忙しなく羽根を動かしながら、一匹の蝶が通り過ぎてゆく。見たこともない―羽根に複雑な模様のある美しい蝶である。
その羽根は見上げた空のような、鮮やかな蒼。
「ああ、美しいな」
泰雅は蝶を見て、無心な笑顔を浮かべた。
蒼い蝶がいつしか女へと姿を変える。
彼が生涯でただ一人、生命を賭けて愛した最愛の女人。
泉水がふわりと微笑む。大輪の花が開いたような艶やかな微笑だ。
泉水が微笑んで手を振る。〝こちらへ〟というように、片手を差しのべ優しく彼をいざなう。
「泉水、迎えにきてくれたのか、そこは愉しそうだな、俺も一緒に連れていってくれ」
泰雅の眼には、蝶が泉水の顔に見えていた。
蝶がいざなうように羽根を動かす。その様は、愛しい女が手招きするように見える。
生命に代えても惜しくはないと思うほどに愛し抜いた女が花のように微笑みかけている。
「泉水―」
泰雅は女に向かって弱々しく手を差しのべる。
これで、長かった苦しい恋も終わるんだな。これからは、ずっと一緒だ。もう、逃げないでくれ、俺の傍から離れないで、いつもその美しい笑顔を見せてくれ。俺は幸せだ。やっと、お前と一緒に暮らせるんだから。もう何があっても、俺たちを引き離すものはない、なあ、そうだろう、泉水。
差しのべられた泰雅の手が力なく落ちた。