胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第5章 《謎の女》
「はて、それが何とも申しまするか、その女が子を産んだという場所がまた何とも―」
琢馬は苦虫を噛みつぶしたような顔で口ごもった。
「爺、仮にも殿のお子をお生み参らせた女性とその御子じゃ。ゆめ、そのような無礼な口のききようをしてはならぬ」
まるで芝居の科白を棒読みにするような口調だ。その物言いに、かえって泉水の衝撃と苦悩が窺い知れた。
「は、これはご無礼仕りました。さりながら、この爺は口惜しうてなりませぬ。槙野源太夫さまの姫君をこうまで蔑ろにされる殿の酷いお仕打ちには最早我慢なり申さぬ」
「仕方あるまい、子を生さぬ正室とは、所詮はこのような扱いを受けるものではないか、爺」
泉水は淡々と言うと、琢馬を見つめた。
「それで、話の続きはどうした? そのお側女が殿のお子をお生み参らせた場所というのは?」
「は、されば、その女―もとい、ご侍妾が和子さまをご出産遊ばされたのは殿のご生母景容院さまのお屋敷だそうにござりまするぞ」
言いにくそうに言った琢馬に、時橋が感情を昂ぶらせた声を放った。
「何ということでありましょう、こともあろうに、おん母君さまが殿お手つきのお側妾をお住まいのお屋敷にお置きになるなぞ、およそ常識では考えられませぬ。一体、このお家の方々はどこまで我らを侮辱なさるおつもりか」
―まっ、そのようなことがあってよろしいのでしょうか。と申すことは、殿のお母君さまもその女の存在をお認めになっていらっしゃるとー?
泉水の耳奥で、腰元たちの会話が蘇る。
あの時、泰雅の寵愛を受けた女の存在を景容院が認めているというのは、こういうことだったのか。
怒り狂う時橋の傍で、泉水は落ち着いた声音で言った。その声にはいささかの感情の乱れもない。
「何もさほどに愕くこともあるまい。母君さまにとって、お生まれになったお子は紛れもなく血を分けた孫に当たられるのじゃ。その孫をお生み参らせたお側妾であれば、あっぱれお手柄と賞めてやりたいお気持ちになられもしよう」
何の役にも立たぬ正室などより、殊勲のお腹さまとなった側室の方が大切に相違ない。
琢馬は苦虫を噛みつぶしたような顔で口ごもった。
「爺、仮にも殿のお子をお生み参らせた女性とその御子じゃ。ゆめ、そのような無礼な口のききようをしてはならぬ」
まるで芝居の科白を棒読みにするような口調だ。その物言いに、かえって泉水の衝撃と苦悩が窺い知れた。
「は、これはご無礼仕りました。さりながら、この爺は口惜しうてなりませぬ。槙野源太夫さまの姫君をこうまで蔑ろにされる殿の酷いお仕打ちには最早我慢なり申さぬ」
「仕方あるまい、子を生さぬ正室とは、所詮はこのような扱いを受けるものではないか、爺」
泉水は淡々と言うと、琢馬を見つめた。
「それで、話の続きはどうした? そのお側女が殿のお子をお生み参らせた場所というのは?」
「は、されば、その女―もとい、ご侍妾が和子さまをご出産遊ばされたのは殿のご生母景容院さまのお屋敷だそうにござりまするぞ」
言いにくそうに言った琢馬に、時橋が感情を昂ぶらせた声を放った。
「何ということでありましょう、こともあろうに、おん母君さまが殿お手つきのお側妾をお住まいのお屋敷にお置きになるなぞ、およそ常識では考えられませぬ。一体、このお家の方々はどこまで我らを侮辱なさるおつもりか」
―まっ、そのようなことがあってよろしいのでしょうか。と申すことは、殿のお母君さまもその女の存在をお認めになっていらっしゃるとー?
泉水の耳奥で、腰元たちの会話が蘇る。
あの時、泰雅の寵愛を受けた女の存在を景容院が認めているというのは、こういうことだったのか。
怒り狂う時橋の傍で、泉水は落ち着いた声音で言った。その声にはいささかの感情の乱れもない。
「何もさほどに愕くこともあるまい。母君さまにとって、お生まれになったお子は紛れもなく血を分けた孫に当たられるのじゃ。その孫をお生み参らせたお側妾であれば、あっぱれお手柄と賞めてやりたいお気持ちになられもしよう」
何の役にも立たぬ正室などより、殊勲のお腹さまとなった側室の方が大切に相違ない。