天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第5章 母子草
八重から見れば、所詮は幼子の憧憬というか、たまたま側にいた八重を擬似恋愛の対象にしているだけのように思えなくもないが、当人は至って真剣そのものである。その中、成長してゆくにつれ、清冶郞が恋だと思い込んでいる感情も次第に変わってゆくのだと思っている。清冶郞に分別ができて、八重への想いが恋ではないのだと判るときが来るのを気長に待つつもりだった。
「若君さまはまだおん幼くていらっしゃるのですもの。こうやって思う存分、お泣きになったり甘えたりなされば、よろしいのですわ」
八重が優しく言い聞かせると、清冶郞は頬をむうと膨らませた。
「ほら、まただ。八重はいつもそうやって私を子ども扱いするんだ」
子どもは子どもに違いないだろうと思うのだが、そんなことを言えば清冶郞はますます機嫌を悪くするだけだから、言わない。
清冶郞は三歳で母に生き別れた。そのことも、清冶郞が年上の八重を慕う一因なのだろう。恐らく―清冶郞は三つで別れた母の面影を八重に重ねて見ているに違いない。八重が清冶郞の求愛を真剣に受け止めきれないのも、そういった事情があるからに他ならない。
第一、清冶郞はまだたったの七つ、恋どころか人を好きになるということがどういうことかもろくに判ってはいないだろう。母親への憧れと恋を混同しているにすぎないのではないか。
「八重はずっと若君さまのお側におりますよ。だから、もうお哀しみにならないで」
八重が言うと、清冶郞ははにかんだような笑みを浮かべた。まだ涙の雫を宿した黒い瞳がきらきらと輝いている。そのあまりのいじらしさ、愛らしさに、八重は清冶郞をギュッと抱きしめた。
「本当、八重、ずっと側にいてくれる?」
小首を傾げる若君に、八重は小指を差し出した。
「若君さまはまだおん幼くていらっしゃるのですもの。こうやって思う存分、お泣きになったり甘えたりなされば、よろしいのですわ」
八重が優しく言い聞かせると、清冶郞は頬をむうと膨らませた。
「ほら、まただ。八重はいつもそうやって私を子ども扱いするんだ」
子どもは子どもに違いないだろうと思うのだが、そんなことを言えば清冶郞はますます機嫌を悪くするだけだから、言わない。
清冶郞は三歳で母に生き別れた。そのことも、清冶郞が年上の八重を慕う一因なのだろう。恐らく―清冶郞は三つで別れた母の面影を八重に重ねて見ているに違いない。八重が清冶郞の求愛を真剣に受け止めきれないのも、そういった事情があるからに他ならない。
第一、清冶郞はまだたったの七つ、恋どころか人を好きになるということがどういうことかもろくに判ってはいないだろう。母親への憧れと恋を混同しているにすぎないのではないか。
「八重はずっと若君さまのお側におりますよ。だから、もうお哀しみにならないで」
八重が言うと、清冶郞ははにかんだような笑みを浮かべた。まだ涙の雫を宿した黒い瞳がきらきらと輝いている。そのあまりのいじらしさ、愛らしさに、八重は清冶郞をギュッと抱きしめた。
「本当、八重、ずっと側にいてくれる?」
小首を傾げる若君に、八重は小指を差し出した。