天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第5章 母子草
それほどまでに尚姫の清冶郞に対するふるまいは冷淡であった。わざわざ再嫁することだけを伝えにきたというのなら、清冶郞の幼い心を傷つけるだけだと、何故、母親なら子どもの心を思いやってやらないのか。いや、同じ別離を告げにきたとしても、もう少し清冶郞に対する愛情を持った言い方やふるまいができるはずだ。
今の尚姫の態度は、ただ清冶郞の心をかき乱し、衝撃を与えただけだろう。
八重が尚姫の心ない仕打ちに憤りを感じた。清冶郞の傷つきやすい心が粉々になってしまわねば良いがと、ただそれだけを念じていた。
尚姫も他人が傍にいては、思うように感情が露わにできなかったのかもしれない。それでも、八重はまだわずかに希望的観測を抱いていた。自分が席を外したことで、少しは母子の間に温かなものが流れたのを期待して部屋に戻ったのだが、八重の期待は外れた。
淹れ直したお茶を捧げ持って戻ってくると、尚姫が笹紅を塗った口許をかすかに歪めた。
「良い、気遣いは無用です」
言い終える間もなしに立ち上がる。
「もうお帰りになられるのでございますか?」
八重は気遣わしげに清冶郞を見た。
清冶郞の顔色は冴えない。最初は母との再会を心から歓んでいるのがひとめで判るほど、瞳が生き生きとしていた。なのに、今は泣き出しそうな表情でうつむいている。
「あの―折角でございますゆえ、もう少しごゆるり若君さまとお語らいをなさってはいかがにございましょう」
僭越な申し出であることは承知だ。しかし、清冶郞がこれではあまりにも哀れであった。
が、尚姫はやはり、八重の行動を出すぎたものと受け止めたようだ。毒々しいほどに鮮やかな唇を更に引き上げ、冷たい眼で睨めつけるように八重を見据えた。
今の尚姫の態度は、ただ清冶郞の心をかき乱し、衝撃を与えただけだろう。
八重が尚姫の心ない仕打ちに憤りを感じた。清冶郞の傷つきやすい心が粉々になってしまわねば良いがと、ただそれだけを念じていた。
尚姫も他人が傍にいては、思うように感情が露わにできなかったのかもしれない。それでも、八重はまだわずかに希望的観測を抱いていた。自分が席を外したことで、少しは母子の間に温かなものが流れたのを期待して部屋に戻ったのだが、八重の期待は外れた。
淹れ直したお茶を捧げ持って戻ってくると、尚姫が笹紅を塗った口許をかすかに歪めた。
「良い、気遣いは無用です」
言い終える間もなしに立ち上がる。
「もうお帰りになられるのでございますか?」
八重は気遣わしげに清冶郞を見た。
清冶郞の顔色は冴えない。最初は母との再会を心から歓んでいるのがひとめで判るほど、瞳が生き生きとしていた。なのに、今は泣き出しそうな表情でうつむいている。
「あの―折角でございますゆえ、もう少しごゆるり若君さまとお語らいをなさってはいかがにございましょう」
僭越な申し出であることは承知だ。しかし、清冶郞がこれではあまりにも哀れであった。
が、尚姫はやはり、八重の行動を出すぎたものと受け止めたようだ。毒々しいほどに鮮やかな唇を更に引き上げ、冷たい眼で睨めつけるように八重を見据えた。