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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第5章 母子草

「そなたが殿のお気に入りだという娘ですか。清冶郞君も殊の外懐いているそうゆえ、よろしく頼みますよ」
 八重は咄嗟に聞き違いかと耳を疑った。
 今、奥方さまは何と仰せになった―?
―そなたが殿のお気に入りだという娘ですか。
 あの雨の日の出来事を知る者は、当事者である嘉亨と八重以外は誰もおらぬはずである。ましてや、あれ以来、嘉亨と八重は殆ど言葉を交わすことさえないというのに。
 奥方は何故、八重が嘉亨のお気に入りだなどと言うのだろうか。

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