天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第5章 母子草
木檜藩上屋敷は上を下への大騒動になった。現在、藩主嘉亨には正室どころか側室もおらず、清冶郞はただ一人の世子である。しかも、清冶郞はいつ何が起こってもおかしくはないという難病に冒されている。大切な若君に何かあっては一大事と、重臣たちは屋敷内を隈無く探した。しかし、清冶郞の姿はどこかにもなく、それこそ雲か霞のように忽然と消えたといか言いようがない。
「申し訳ございませぬ。私のせいにございます。私が眼を離したばかりに」
清冶郞付きの腰元八重は身を揉んで号泣した。
清冶郞が姿を消して半日、夕刻になって奥向きの春日井を訪ねた江戸家老酒井主馬助但世は、難しい表情で腕を組んだ。
「これは、一体いかなることにござろうや。神隠しでもあるまいに、見張りも厳重なこの屋敷内から霞みのように消えてしまわれるとは。よもや人攫いか賊が若君を攫っていったのではあるまいか」
と、思案顔であった春日井がゆるりと首を振った。
「いえ、私はそのようなご心配は無用かと存じます」
「何と、春日井どのは若君のおん行方がお判りか?」
意気込んで訊ねてきた但世に、春日井はこれにも首を振る。
「行き先は存じませぬ。さりとて、今回のご失踪は若君ご自身のご意思によるものであることだけは判ります。ゆえに、人攫いによる仕業ではないと申しております。原因は恐らく、昨日、尚姫さまが当家にお越しになった件にござりましょうが」
「申し訳ございませぬ。私のせいにございます。私が眼を離したばかりに」
清冶郞付きの腰元八重は身を揉んで号泣した。
清冶郞が姿を消して半日、夕刻になって奥向きの春日井を訪ねた江戸家老酒井主馬助但世は、難しい表情で腕を組んだ。
「これは、一体いかなることにござろうや。神隠しでもあるまいに、見張りも厳重なこの屋敷内から霞みのように消えてしまわれるとは。よもや人攫いか賊が若君を攫っていったのではあるまいか」
と、思案顔であった春日井がゆるりと首を振った。
「いえ、私はそのようなご心配は無用かと存じます」
「何と、春日井どのは若君のおん行方がお判りか?」
意気込んで訊ねてきた但世に、春日井はこれにも首を振る。
「行き先は存じませぬ。さりとて、今回のご失踪は若君ご自身のご意思によるものであることだけは判ります。ゆえに、人攫いによる仕業ではないと申しております。原因は恐らく、昨日、尚姫さまが当家にお越しになった件にござりましょうが」