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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第5章 母子草

 その顔に、八重は胸を衝かれた。
 黒いつぶらな瞳に涙が溢れている。
「若君さま、八重はもう生きた心地も致しませんでしたよ」
 八重もまた込み上げる涙を堪えて言うと、清冶郞の眼からポロリと涙の雫がころがり落ちた。わっと泣きながら駆けてくる清冶郞を両手をひろげて抱き止めた。
 八重は、お智のことなど眼中に入らず、清冶郞さま、清冶郞さまと、身も世もなく、清冶郞を抱きしめて涙ぐんだ。

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