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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第5章 母子草

 何しろ、まだ七つの頑是なき童なのだ。
 それにしても、よく似ている。
 形の良い額や整った鼻筋、伏せた眼許や濃い翳を落とす長い睫でさえもが写し取ったように父嘉亨に似ている。こんなときでさえ、清冶郞の寝顔を見ているだけで、八重の心には嘉亨の面影が浮かぶ。
 八重の胸で切なさと愛しさがせめぎ合った。
 八重はしばらく清冶郞の寝顔を見た後、そっとその手を放し、布団に戻してやった。
 自分もまた布団に身を横たえ、そっと眼を閉じる。
 どこかで風鈴の音がかすかに鳴っているのを遠くに聞きながら、八重も深い眠りにいざなわれていった。

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