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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第6章 撫子の君

 また、一陣の風が吹き、無数の風車が音を立てて一斉に回る。その様は、圧巻ともいえた。
―世の中は不昧因果の歯車や、良し悪しともに巡り果てぬる

 その光景を見ていると、何故か豊太閤の時代、はるか昔の戦国の世に流行ったという落首が浮かぶ。
 尚姫は生まれた我が子を抱こうともせず、三歳の幼い清冶郞を棄てた。そして、今度もまた我が子を見限り、愛した男の許へ嫁ぐために遠い都へ旅立とうとしている。そのために、今、清冶郞は母に棄てられた悲哀と孤独を味わっているのだ。
 親の因果が子に報い―。しかし、清冶郞自身には何の拘わりもないことだ。何ゆえ、七歳の幼子がこのような哀しい想いをせねばならないのか。生まれながらに重い病を背負ってしまったのも、その病ゆえに定められた生命が限りあるものであるのも、すべては清冶郞自身に原因があるわけではない。
 ただ、たまたま、その星の下に生まれ、運命のめぐり合わせがそのようになってしまっただけのこと。我が身の思うように我意を通して生きてきた母親の宿業をもし清冶郞が不幸にして負うてしまったのだとしたら。それは、あまりにも残酷というものだった。
 それでも、清冶郞は懸命に生きようとしている。迫りくる死の恐怖に怯えながらも、毅然として宿命を受け容れようと努力し、与えられた日々を、残された生命を精一杯燃やし尽くそうとしているのだ。そんな清冶郞だからこそ、八重もまた力の限り支えてあげたいと思うし、ずっと側にいて見守っていたい。
 せめて尚姫がもう少し愛情深い母親であったならと恨めしく思わずにはいられなかった。
 八重は、清冶郞の背負った苛酷な宿命が哀しく愛おしかった。

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