天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第6章 撫子の君
いつだったか、こんなことがあった。
清冶郞が嘉亨から賜り、大切にしていた小鳥を自ら逃したのだ。鳥籠に入れたその鳥を大切に世話するのは八重の役目でもあった。 何を思ったか、突然、軒先につり下げた鳥籠の戸を開けた清冶郞に、八重は驚愕した。―若君さま、それは殿より頂いたおん大切な小鳥では―。
その小鳥は何でも、息子のために嘉亨がわざわざ九州の薩摩藩島津家から譲り受けた珍しい鳥だったという。八重が蒼くなったのも無理はなかった。
しかし、その時、清冶郞は儚い笑みを浮かべて、こう言った。
―八重、鳥は本来、大空を自由に羽ばたいて生きてゆくものだ。こんな風に狭い籠に閉じ込められて、窮屈な思いをさせるのは可哀想だよ。
あの日、清冶郞には鳥籠の中の小鳥が、あたかも我が身のように思えていたのかもしれない。豪奢な鳥籠の中で限られた生命を生きる小鳥に―。
清冶郞が勝手に鳥を逃がしたことで、流石に春日井も嘉亨に
清冶郞が嘉亨から賜り、大切にしていた小鳥を自ら逃したのだ。鳥籠に入れたその鳥を大切に世話するのは八重の役目でもあった。 何を思ったか、突然、軒先につり下げた鳥籠の戸を開けた清冶郞に、八重は驚愕した。―若君さま、それは殿より頂いたおん大切な小鳥では―。
その小鳥は何でも、息子のために嘉亨がわざわざ九州の薩摩藩島津家から譲り受けた珍しい鳥だったという。八重が蒼くなったのも無理はなかった。
しかし、その時、清冶郞は儚い笑みを浮かべて、こう言った。
―八重、鳥は本来、大空を自由に羽ばたいて生きてゆくものだ。こんな風に狭い籠に閉じ込められて、窮屈な思いをさせるのは可哀想だよ。
あの日、清冶郞には鳥籠の中の小鳥が、あたかも我が身のように思えていたのかもしれない。豪奢な鳥籠の中で限られた生命を生きる小鳥に―。
清冶郞が勝手に鳥を逃がしたことで、流石に春日井も嘉亨に