天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第6章 撫子の君
「お似合いの夫婦だねぇ。羨ましいよ、旦那。そんな可愛くて別嬪の嫁さん貰ってさ。俺っちのカカァときたら、鬼瓦がよしろくってえようなご面相だよ」
と、男の後ろから女房がその耳をぎゅうと引っ張ったから、たまらない。
「何だって、誰が鬼瓦だって?」
「い、痛ぇ。全っく、だから、鬼瓦だって言うんだよ」
男は大袈裟に悲鳴を上げ、顔をしかめて見せる。なるほど、男の耳をぐいぐいと引っ張る女房は鬼瓦とでも呼びたいような容貌ではあるが、下がり気味のぎょろ眼は見ようによっては愛敬があるといえなくもない。
そこから夫婦喧嘩が始まり、嘉亨は苦笑しながら、そっと飴売りの側を離れた。八重も慌ててその後をついてゆく。
歩きながらも、八重は気が気ではなかった。
飴売りの男に先刻、似合いの夫婦と言われたときの戸惑いに、まだ煩くなった鼓動が静かにならない。
顔も赤くなっているのではないかと思うと、身も世もないほどに恥ずかしかった。
嘉亨の顔がまともに見られない。
だが、心の奥底を覗けば、戸惑いだけでなく、やはり嬉しさも混じっているのは否定できない。あの科白を嘉亨がどう受け止めたのかは判らないが、常と変わらぬ穏やかな横顔は、特に何を感じているわけでもなさそうだ。
―私ったら、馬鹿みたい。何を一人で紅くなったり蒼くなったりして―。
要するに、嘉亨にとっては気に留めるほどのことでもない、というのが正直なところなのだろう。
そう思うと、一人で勝手に恥ずかしがっている自分が滑稽にも哀れにも思えてきた。
と、男の後ろから女房がその耳をぎゅうと引っ張ったから、たまらない。
「何だって、誰が鬼瓦だって?」
「い、痛ぇ。全っく、だから、鬼瓦だって言うんだよ」
男は大袈裟に悲鳴を上げ、顔をしかめて見せる。なるほど、男の耳をぐいぐいと引っ張る女房は鬼瓦とでも呼びたいような容貌ではあるが、下がり気味のぎょろ眼は見ようによっては愛敬があるといえなくもない。
そこから夫婦喧嘩が始まり、嘉亨は苦笑しながら、そっと飴売りの側を離れた。八重も慌ててその後をついてゆく。
歩きながらも、八重は気が気ではなかった。
飴売りの男に先刻、似合いの夫婦と言われたときの戸惑いに、まだ煩くなった鼓動が静かにならない。
顔も赤くなっているのではないかと思うと、身も世もないほどに恥ずかしかった。
嘉亨の顔がまともに見られない。
だが、心の奥底を覗けば、戸惑いだけでなく、やはり嬉しさも混じっているのは否定できない。あの科白を嘉亨がどう受け止めたのかは判らないが、常と変わらぬ穏やかな横顔は、特に何を感じているわけでもなさそうだ。
―私ったら、馬鹿みたい。何を一人で紅くなったり蒼くなったりして―。
要するに、嘉亨にとっては気に留めるほどのことでもない、というのが正直なところなのだろう。
そう思うと、一人で勝手に恥ずかしがっている自分が滑稽にも哀れにも思えてきた。