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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第6章 撫子の君

「あ―」
 愕いた八重が小さな声を上げると、蝶もまた愕いたかのように再び舞い上がり、やがて、ひらひらと舞いながらどこかに飛んでいった。
 八重は、勿体ないような気持ちでいつまでも蝶の消えた方を見つめていた。
「今度、蝶を象った簪を買って遣わそう」
 嘉亨は笑いながら言うと、八重の抱え持つ花束から一輪の撫子を抜き取り、そっと髪に挿した。
 結い上げた艶やかな黒髪に薄紅の花がよく映えている。豪奢な簪や笄よりは、花の方が八重の可憐な風情にはよく似合った。
 キモノ
「うむ、なかなか良い」
 眼を細める嘉亨に、八重が思わず頬を染める。
 清冶郞はそんな二人から少し離れて後ろからついてきている。父と八重を見つめる清冶郞のまなざしは暗かった。

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