天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第6章 撫子の君
いつしか寝入った清冶郞を背負い、嘉亨がゆっくりと歩き始めた。その傍らに八重がいる。二人は並んで帰り道を辿った。
こんなときなのに幸せを感じてしまう八重の瞳に、茜色に染まった秋の空が映った。菫色、藍色と西の空は刻一刻と色をうつろわせてゆく。
気付かぬ間に、空はすっかり夜の色に染まっていた。
嘉亨と並んで、八重は夜道を歩いた。昼間の暑さが嘘のように夜風は涼しいのに、顔だけが熱い。満月のためか、いつもの夜より明るかった。
嘉亨の歩みがふと止まった。
空を仰げば、円い月が煌々と夜空を照らしている。月を取り囲むように星が輝き、さながら光の雨が地上に降り注ぐかのようにきらめいていた。
嘉亨と清冶郞、それに八重の三人でこうして夏の星座を眺めたのは、いつのことだったか。確か文月の下旬のことだった。あれからまだ半月ほどしか経っていないのに、もう随分と刻を経たような気がしてならない。
和泉橋を渡り、既に三人は和泉橋町に入っている。昼間でさえ人通りの少ない道は、この時間、猫の子一匹見当たらなかった。月明かりに照らされた道が続いている。その脇沿いには松平越中守の屋敷を取り囲む塀が延々とのびていた。
月光にそこだけ白々と照らされた道は、あたかも舞台の花道のようだ。
八重の耳に、いずこからともなく義太夫の哀切な語りが聞こえてくる。
こんなときなのに幸せを感じてしまう八重の瞳に、茜色に染まった秋の空が映った。菫色、藍色と西の空は刻一刻と色をうつろわせてゆく。
気付かぬ間に、空はすっかり夜の色に染まっていた。
嘉亨と並んで、八重は夜道を歩いた。昼間の暑さが嘘のように夜風は涼しいのに、顔だけが熱い。満月のためか、いつもの夜より明るかった。
嘉亨の歩みがふと止まった。
空を仰げば、円い月が煌々と夜空を照らしている。月を取り囲むように星が輝き、さながら光の雨が地上に降り注ぐかのようにきらめいていた。
嘉亨と清冶郞、それに八重の三人でこうして夏の星座を眺めたのは、いつのことだったか。確か文月の下旬のことだった。あれからまだ半月ほどしか経っていないのに、もう随分と刻を経たような気がしてならない。
和泉橋を渡り、既に三人は和泉橋町に入っている。昼間でさえ人通りの少ない道は、この時間、猫の子一匹見当たらなかった。月明かりに照らされた道が続いている。その脇沿いには松平越中守の屋敷を取り囲む塀が延々とのびていた。
月光にそこだけ白々と照らされた道は、あたかも舞台の花道のようだ。
八重の耳に、いずこからともなく義太夫の哀切な語りが聞こえてくる。